【集会報告】被災者切り捨ての中、「東北復興」を掲げた天皇行事をはねかえせ! 山形海づくり大会反対を闘う

三大天皇行事の一つ『第三六回全国豊かな海づくり大会〜やまがた』が「森と川から 海へとつなぐ 生命のリレー」を大会テーマに山形県庄内地方(式典は酒田市、放流行事は鶴岡市)で開催された。現地で反対闘争が準備されているので本実行委は七月一八日「海の日」に、築地社会教育会館で、会場周辺に公安がひしめく中、五〇人弱の参加を得て集会を行った。

山形の鈴木雄一さん(反戦反天皇制労働者ネットワーク・山形)は、「東北(支配)と水産業」と題して報告を行った。山形「海づくり大会」は、二〇一六年岩手「国体」、二〇一八年福島「植樹祭」へと続く、復興(新秩序)と振興(侵攻)につながる、鎮撫と「富国強兵」政策に向うためのものである。「東北」、や「鼠ヶ関」(ねずがせき)という地名は、外敵の住む北のはずれを意味する蔑視感があふれている。さらに東北は戊辰戦争で朝廷にさからって以降、仙台におかれた第二師団を中心に経済と行政がつくられてきた。「海づくり大会」の式典会場である酒田市も製鉄業など軍需産業のまちとして形成された。東北は「明治」に二回の天皇行幸が行われたが、その目的は自由民権運動弾圧と軍隊の慰労が主であり、軍隊を通して天皇制が入ってくるという今と同様のことが行われた。山形「海づくり大会」は「森と川から、海にも直接、放射能汚染による生命の危機リレー」である。福島原発事故の凍土壁工事は失敗し、汚染地下水は流出し、さらに大量のタンクの汚染水を海洋投棄によるさらなる海洋汚染を隠蔽し、被害者切り捨てに対する天皇による鎮撫工作である。復興演出のための、天皇のための行事であると弾劾し、現地闘争への参加を呼びかけた。

天野恵一さん(8・15反「靖国」行動実)は、「天皇行事の政治的意図」と題して、「天皇の『生前退位』が発表され、今日は、偶然だが最初の反撃の集会となった。昭和天皇のXデープロセスは自粛騒ぎだったが、今回は天皇アキヒトが生きたまま始まった。皇室典範改正や天皇が生きたまま即位したり、元号が変わったりする。今後の天皇儀礼は、全部Xデープロセスとして演出される。棄民化政策、被災者の切り捨てを行いながら『震災の復興』を演出し、その総仕上げとして『復興』茶番の東京オリンピックが行われる。「共産党が、天皇出席の国会開会式に出席するなど護憲派の総崩れの中で、『違憲行為はやめろ』という土俵で共闘する運動をどのように作っていくかが問われていると訴えた。現地闘争への結集を確認して集会を終えた。

九月一〇日、一一日の「海づくり大会」当日には、「反戦天皇制労働者ネットワーク・山形」の主催で現地闘争が闘われた。

一〇日は酒田市総合文化センターで、各地から反天皇制を闘う仲間三〇人超が結集し集会を行った。会場の内外を公安刑事がひしめいているのは天皇行事の恒例である。

主催者は「天皇アキヒトの『生前退位』意向表明後初の「地方公務」であり、3・11以降東北での初めての天皇行事である。今回の「海づくり大会」の目的は、放射能汚染の隠蔽、東北復興を演出することである。山形『海づくり大会』に続いて、岩手、二〇一八年福島と続く天皇制攻撃を、東北全体ではね返す最初の闘いにしたい」と訴えた。
続いて酒田現地から報告を受けた。報告者は大連に生まれ、満州での戦時体験を今に伝える語り部でもあり、戦後、弁論大会で天皇の戦争責任を追及しようとした「どしょっぽね」の持ち主である。大連で経験した学校と教師と戦争と経済を、実体験を元に教師の変貌のあり方として断罪した。

続いて鶴岡からは、雑木林再生のために子どもたちと植林した天然林を「海づくり大会」のために刈り払いされたことや漁場汚染の実態が批判された。

反戦反天皇制労働者ネットワークの吉田宗弘さんは、二〇一三年水俣の「海づくり大会」は水俣病が発生した「水俣の海の再生」、二〇一二年沖縄は「復帰四〇年を祝う」という政治的目的が明らかであり、天皇の「公的行為」とは「政治行為」であると断罪した。

靖国・天皇情報センター、立川、筑波、三鷹、静岡、札幌の参加者から連帯とアピールを受けて、集会を終えた。翌日一一日は九時半から参加者の決意表明を受け、式典時間にあわせ、式典会場近くを通るデモ行進を行った。「天皇出席の海づくり大会反対」「天皇制はいらない」などシュプレヒコールを上げるデモ隊と大量の機動隊と公安は近隣住民の注目の注目を浴びた。機動隊も秋田や山口などから集められていた。

闘争後、天皇の車列のために私たちの車が通行妨害を受けるという事態まで体験したが、天皇代替わり攻撃、天皇制賛美報道の中で、「天皇制廃絶」の声をあげることの解放感を実感した闘いであった。  

(野村洋子)

【集会報告】「天皇代替わり」過程の開始の中で、 7・30前段集会と8・15当日のデモに取り組む

今回の靖国と天皇制を問う実行委員会の行動は、「『聖断神話』と『原爆神話』を撃つ 8・15反『靖国』行動」としてなされました。

伊勢志摩サミットに引き続くかたちでなされたオバマ米大統領の広島訪問では、アメリカによる原爆使用の謝罪は表明されないで、一般的な「核廃絶」メッセージがなされるにとどまったのみならず、戦争において核兵器が使用され、これが批判され続けているにもかかわらず、その後の日米の軍事同盟が盤石なものである、ということこそが強調されたのです。裕仁の決断で戦争が終了したという虚構と、原爆によってこそ戦争を終了させることができたという虚構は、日米それぞれが戦後体制を築く端緒としての歴史の偽造であり、今回の行動ではこれを問題として提起していきました。

実行委の行動としては、七月三〇日に前段討論集会を持ち、八月一五日に当日行動を行なうという組み合わせで進められました。その過程で、明仁天皇じしんが「生前退位」を希望するという、天皇自身によって領導される「天皇制の代替わり」過程が開始され、同時に、与党政権が参院選を経て議会における圧倒的多数を確保したことで、憲法改悪もまた具体的な危機となっています。私たち実行委の行動は、そうした面からも、より重要な意味を持つものとなりました。

七月三〇日の討論集会では、講師として、千本秀樹さん(日本近現代史研究)から、「『聖断』のウソ─天皇制の戦争責任を問う」と題した問題提起を受けました。

昭和天皇裕仁の終焉が近づいた時期になって、「昭和天皇は平和主義者であった」という捏造がメディアに広く流通し始めました。それまで主体的・能動的に政治と戦争を指導してきた裕仁は、悲惨なアジア太平洋戦争における日本の敗戦が蔽いようもなく明らかな最終期になって、その側近たちとともに、天皇制を戦後に生きのびさせるための大掛かりな工作を開始しました。それは、連合国なかでもアメリカの戦後構想に、天皇制国家日本をビルトインさせるものでした。天皇の「聖断」により戦争が終結し「一億総懺悔」するという虚構とともに、国家の犯罪を明らかにする多くの事実や資料は隠滅されました。戦争責任を一つひとつ具体的に問うことが、戦後における民主主義の出発点になるはずでしたが、それらはすべて現在に至るまで未決のままとされています。明仁天皇は、こうした問題をすべて伏せ続けながら、天皇制の延命と天皇制国家の改変プロセスを新たに起動させようとしているのです。講演に引き続き、「沖縄一坪反戦地主会・関東ブロック」、「平和の灯を! ヤスクニの闇へ キャンドル行動実行委員会」、「再稼動阻止全国ネットワーク」から、集会への連帯アピールがなされ、「8・6ヒロシマ平和へのつどい二〇一六実行委」からの連帯アピールが紹介され、今回の8・15行動へのよびかけが参加者全体で確認されました。

八月一五日の行動では、まず在日本韓国YMCAにおいて、前段集会が行われました。今回の行動に参加した「No Welcome !  Tokyo Olympic Games 実行委員会」、「米軍・自衛隊参加の東京都総合防災訓練に反対する荒川・墨田・山谷&足立実行委」、「天皇出席の山形『海づくり大会』反対実行委」、「福島原発事故緊急会議」、「警視庁機動隊は沖縄・高江に行くな! 緊急抗議行動」、「Stop ! 辺野古埋め立てキャンペーン」、「辺野古の闘いを全国へ 辺野古リレー」、「有事立法・治安弾圧を許すな! 北部実行委員会」、日韓民衆連帯全国ネットワーク「東アジアの平和実現9・17集会実行委員会」からの発言を受け、参加者全体により「集会宣言」(別掲)が採択されて、デモ行進に移りました。

今回の行動に対しても、右翼団体からの攻撃はさまざまになされ、掲げた横断幕を奪おうとする右翼により参加者が指を骨折するなどの状況はありましたが、多くの人々による毅然とした対応により、前回を上回る二百八十人の参加をもって、行動を締めくくることができました。共同行動への熱い支援に心から感謝します。

なお、今年は山形「海づくり大会」を取り組む現地の人たちからの呼びかけがあり、実行委として課題に加えて、7・18集会開催と現地行動への参加も取り組みました。

(nomad)

*共同行動報告集(2016年10月28日発行)より

【集会報告】「聖断神話」と「原爆神話」を撃つ 8・15反「靖国」行動 実行委員会報告

反天皇制運動の実行委員会による、今年の反「靖国」行動は、〈「聖断神話」と「原爆神話」を撃つ8・15反「靖国」行動〉として取り組まれた。8・15の「聖断神話」と、オバマの広島訪問に通底する、「謝罪」どころか「死者」を利用する政治を、重ねて問題化しようという趣旨だった。

そのテーマはもちろん実行委の行動を通じて貫かれていたが、予想外の天皇制攻撃として出てきた「生前退位」を天皇主導の「Xデー」プログラムとしてとらえ、集会それ自体がそれへの反撃の第一歩となることを、常に意識して取り組んでいくこととなった。

8・15を前に、私たちは二つの集会を持った。まず、七月一八日に「天皇行事の『海づくり大会』はいらない!海づくりは、海こわし」と題して、九月に行なわれた山形「豊かな海づくり大会」反対に向けた討論集会を持った。その五日前にNHKの報道がなされた直後の集会である。実行委から発言した天野恵一がいう通り、天皇の「生前退位」に対する最初の反撃の集会となった。

七月三〇日には、千本秀樹さんを講師に、「『聖断』のウソ─天皇制の戦争責任を問う」と題した講演集会をもった。そして八・一五当日は、多くの団体からのアピールをもらい、デモに出発した。詳しくはそれぞれ別掲報告をみてほしい。

「有識者会議」が発足し、来年の国会に「生前退位」を可能とする法案が上程され、二〇一八年に「即位・大嘗祭」という説も出ている。そして二〇二〇年「東京オリンピック」が、新天皇の本格的な登場の舞台となるだろう。こういったかたちで、あたかも新しい天皇制の登場は、既定のスケジュールとして、私たちの前に示され、人びともまた、日常の中で既に先行的に「統合」しなおされているかのようである。

今後私たちは来年の反天皇制運動の準備に入っていくが、それは当然、この一連の課題を正面に掲げるものとならざるをえない。そこで、どのようなことばで、どのような運動を、どのような陣形で作りあげていくかが、ひとつひとつ問われることになるだろう。 しかし、すでにこの天皇状況の「日常化」に対して、違和を表明し、あえてそれを問題化していくさまざまな行動が各地で始まっているのだ。そうした行動の中から、討論し、考えよう。そしてともに闘い続けよう。

(北野誉)

*共同行動報告集(2016年10月28日発行)より

【学習会報告】岩波新書編集部編 『昭和の終焉』(岩波書店、一九九〇年)

ちょうどXデーから一年経って岩波新書編集部が出した岩波新書。八人の論者が書いた論考を集めたもの。井出孫六だけが書き下ろしで他は「世界」や「マスコミ市民」に掲載された論考だ。どれもXデー直後に書かれたものなので、当時の緊張が行間に滲み出ている。

豊下楢彦「『天皇・マッカーサー会見』の検証」は最初朝日新聞に一九八九年二月六・七日に掲載されているが、この時は「天皇とマッカーサー会見」。担当した朝日新聞の記者が天皇のあとに「・(ナカグロ)」をつけると右翼から「不敬」だと非難されることを恐れて「と」となったという。今から見ると笑えるが、当時の空気を象徴している。

最も興味深かったのは、巻頭の奥平康弘の「日本国憲法と『内なる天皇制』」。観念論的な「内なる天皇制論」ではなく憲法論として「内なる天皇制」を展開しているところにその特徴がある。奥平は憲法の天皇制の諸規定こそが「内なる天皇制」にとっての栄養源だとし、これまで憲法学者は民主主義の基準に照らして天皇の地位や役割を最小限度のものにする解釈論を提示するよう努めてきたが、それでは国事行為以外の行為に関して憲法で論じられない限界があると指摘する。「国体」概念も「主権の所在」は変更されたのだから「国体」は崩壊したのだが、文化現象としての天皇崇拝へと「国体」概念のすり替えに成功したと捉える。
さらに憲法制定以前に帝国議会がさっさと旧皇室典範を修正して生存退位への道を開いた上で天皇の退位を決議する方法を取るべきだったという奥平の言う「ありえてよかった」選択は今だからこそ含蓄深い。

次回は一〇月二五日。今回の奥平の議論をさらに深めるために奥平康弘『万世一系の研究』を読む。

(宮崎俊郎)

【集会報告】第4回女天研講座「ジェンダーと天皇制」

九月二一日夜、四回目になった女天研連続講座は、首藤久美子さんが「女性皇族の公務──慰問? 福祉?」というタイトルで、高円宮久子が東京オリンピック招致の際のスピーチをした話からスタートした。

明治時代に入って、「大日本帝国憲法」と同格の「皇室典範(旧)」を整備するのと並行して、西洋をお手本とした近代化のなかで男女の性差をも利用した天皇制が作られた。明治天皇・大正天皇のそれぞれの皇后も養蚕、慈善、戦傷兵士慰問などを行ってきたが、それらは「男性によって象徴される規制の権威や体制への異議申し立てとして女性神格が『逆さまの世界』を作り出す手段として有効だった」とした若桑みどりさんの分析は、今の女性皇族の捉え方、打ち出し方もその延長線上にあるのではないかと首藤さんは語る。

現在の女性皇族のおびただしい数の名誉職を紹介したあと、全国赤十字大会に出席して発言している香淳皇后(良子)の珍しい映像(始めて声を聞いた!)、そして壇上に美智子(名誉総裁)を先頭に女性皇族がぞろぞろと入場してくる姿(かなりきもい)を映したDVDを鑑賞した。「女」としての役割のお手本のようにコメントする人もいる。天皇制そのものが「女性的」なのではないか。また、天皇のさらに上に「国体」をおき、その「国体」に奉仕をする、天皇を頂点にした「国民」のヒエラルキーが存在しているのではないか、と首藤さんは問うた。

今の女性皇族の「公務」としている仕事にフォーカスして考えるというのは、天皇制の現在的問題点を考える意味でもとても重要だ。だいたい名誉総裁ってなに? スポーツ界、医学会、芸術関係の多くの団体が名誉総裁として皇族、特に傍系の女性皇族が多く担っている。それを頼む側の論理はどうなっているのだろう。皇族に頼むと箔が付くのか、それぞれの業界の発展に有利に働くのか。首藤さんの問いかけは容易に結論の出るものではないが、「天皇制とジェンダー」という講座のメインテーマそのものであり、今後も講座の通底するテーマであると思った。

(中村ななこ)

【傍聴報告】靖国参拝違憲訴訟第九回、一〇回口頭弁論

安倍靖国参拝違憲訴訟の第九回、一〇回の口頭弁論が九月五日と一二日に東京地裁103法廷で行われた。

原告でありながら、平日の昼間の傍聴にはなかなか参加出来ずにいたが、今回は裁判も山場で、原告一四人の尋問が行われるということなので、仕事を休んで傍聴した。

弁護団は書面による証拠調べに加え、専門家五人(吉田裕、木戸衛一、張剣波、南相九、青井未帆)の生の声による証人尋問の必須を訴え、証人採用の請求もしていたが、こちらは却下されたということだ。

法廷に入り着席すると、弁護団、裁判官、被告である国、首相、靖国神社の各代理人の各机上には、弁護団が作成した準備書面が、崩れ落ちそうなほど山積みにされていたが、これだけの書類を作成するのは、本当に大変なご苦労だっただろう。

五日は、関千枝子、池住義憲、森田麻里子、辻子実、一戸彰晃、根津公子、三浦永光、松本佐代子(米田佐代子)各原告の証人尋問が行われた。割り当られた時間は一人三〇分。戦争がもたらす悲劇、踏みにじられる人権、このようなことを二度とおこさせないという気概に満ちたそれぞれの生き様をも感じさせる、権力と対峙する凛とした証言に私の目頭は熱くなった。反天実の8・15のデモに触れ、「靖国」支持者たちの暴力的行為も証言された。戦争に人々を動員させる装置としての「靖国」。「慰霊・顕彰」の施設は戦争国家に欠かせないものであるという靖国の闇が法廷に浮かびあがった。一〇時半から一六時過ぎに及ぶ長時間だったが、その場に立ち会えて本当に良かったと思う。

一二日は、中国、香港、韓国、ドイツと日本人の残りの原告証言(王選、許朗養、星出卓也、山内斉、李熙子、金鎮英)が行われたが、裁判所が手配した通訳は、言葉の壁を思い知らされるお粗末なもので非常に残念であった。当初、七三一部隊の残虐で非人道的な行為を告発してきた中国人の胡鼎陽さんの証人尋問が予定されていたが、ビザを発給しないという国による妨害が行われた。抗議声明が出されているので参照されたし。今後の裁判の流れはAlertでもお知らせするので、注目を!

(桃色鰐)

【集会報告】24条変えさせないキャンペーン キックオフシンポ

秋の国会が始まり、改憲問題は早々に俎上に載せられつつある。この国会を迎え撃つように、九月二日、「24条変えさせないキャンペーン」のキックオフシンポジウムが上智大学で開催された。同実行委員会の主催で、参加者は約一八〇人とのこと。

メインのスピーカーは木村草太(首都大学東京)。しかし彼の話は、このキックオフシンポのためになされたとは言いがたい内容で、憲法24条問題にかかる自民党草案についても「相手にする価値がない」とまで言う始末。24条の意義や成立過程など基本的な話も、後半の発言者の一人で呼びかけ人でもある清末愛砂が、家族主義と新自由主義について語る中で展開したが、そちらに譲った感じであった。メインスピーチの後、対談の相手として登場した北原みのりは、改憲草案24条の問題を改めて訴え、「すでにキックオフされている」と切り返し、会場の空気を盛り返していった。

後半は、能川元一(大学非常勤講師)、清末愛砂(室蘭工業大学)から一〇分ほどの発言。引きつづき赤石千衣子(しんぐるまざあず・ふぉーらむ)、打越さく良(弁護士)、大橋由香子(SOSHIREN女(わたし)のからだから)、戒能民江(お茶の水女子大学名誉教授)、藤田裕喜(レインボー・アクション)と五分間スピーチが続いた。私も女性と天皇制研究会として発言した。天皇の「生前退位」メッセージが出てまもなくのことでもあり、天皇メッセージにある「伝統の継承者」発言をひきつつ、家族国家的な安倍政権の体質と自民党改憲草案24条および前文について問題提起した。五分という短さもあり、珍しく詳細なメモを作って準備したが、それでも、「時間ですよ」の札をみせられる羽目に……。

後半は、それぞれの専門あるいは運動の立場からの問題提起で、短時間の濃密な発言が相次ぎ、興味深く充実した時間だった。また、天皇制の課題が、さまざまな課題とクロスしていることを再認識する機会ともなった。

(大子)

【今月のAlert 】「有識者会議」設置─ 「国民的議論」を超えることばを!

九月二三日、政府は「生前退位」などを論議する「有識者会議」のメンバーを発表した。これまでさまざまに設置されてきた「有識者会議」や「審議会」に名を連ねてきた面々である。一〇月中旬に第一回会合を持ち、早ければ年内にも「提言」という見通しが語られている。

同時に、宮内庁人事も発表された。風岡宮内庁長官が退任し、次長がトップに就いたが、その後任として、内閣危機管理監の西村泰彦が官邸から送り込まれた。西村は、宮内庁側のカウンターパートとして天皇の「公務軽減」について検討してきた内閣官房副長官・杉田和博と同じ警察官僚出身者である。「宮内庁の人事を官邸主導に切り替えた」ことを意味する、と報じられている。
七月一三日のNHKの報道と、明仁自身の八月八日のビデオメッセージによって明らかとなった「生前退位」の意志の表明は、単にそれだけではなくて、象徴天皇制とはどのようなものであるのかを天皇自身が定義し、天皇が行ってきた行為と、それによって生み出されてきた「国民とのつながり」について自賛し、それを天皇のなすべき仕事として、明仁天皇自身の関与のもとに「代替わり」を果たすことを通じて、新たな天皇像を確立していくという宣言だった。それは、天皇自らの意志に基づき周到に準備された。国事行為以外の「公的行為」なる違憲の行為が、天皇の大切な「つとめ」であるということを、これまたマスコミを使った違憲の政治的行為によって果たしたこの目論見は、しかしかなりの部分において成功したといわなければならない。

ビデオメッセージ放送直後の世論調査では、生前退位を「できるようにしたほうがよい」が八六・六%、その理由として「天皇の意向を尊重すべきだから」を選んだ回答者が六七・五%を占めた(共同通信社)。七月一三日の段階では、「生前退位は摂政冊立によって可能だ」などと論じていた小堀桂一郎や渡部昇一ら右派系の論者も、天皇自身による明確な「摂政否定」と圧倒的な「国民的支持」を前に封殺され、生前退位を可能にする皇室典範改正へと、一挙的に進むかとも思われた。

だが、政府は皇室典範を改正せず、現天皇一代限りの特例法で処理する意向であると報じられ、さらに、三〇日の衆院予算委員会において、横畠祐介・内閣法制局長官は、皇室典範を改正せず、特例法で「生前退位」が可能になるとの政府見解を示した。

この一連の事態に、「生前退位」にはそもそも消極的だった安倍官邸の「巻き返し」を見ることもできよう。右派の「生前退位」反対論が、皇室典範改正となれば、「女性・女系天皇容認論」につながるという危惧によっていることは明らかだ。「安定的な皇位継承」、ひいては天皇制の存続のためには「女性・女系天皇」の実現を辞さないという考えをもつ(と伝えられる)現天皇に対して、安倍を含む右派勢力は、あくまで男系にこだわっていた。なんとか摂政で妥協できないかと、官邸が宮内庁を揺さぶっていたという報道もあった。

確かに、ビデオメッセージで示された「お気持ち」の眼目は、たんに年をとったから引退したいというような話ではなかったはずだ。そこで目論まれていた主体的・積極的な天皇像の確立は、また別の事情によって、いったんブレーキがかけられたのかもしれない(そうした主張のために、「天皇の政治的発言は憲法上許されない」などとしきりに強調する右派がいて、そのご都合主義には呆れるが)。皇室典範改正はリスクが大きいので、やるなら「特例法で」という安倍のオフレコ発言の線で収まりつつあるのかもしれない。

けれども、天皇によって開始され主導された事態が、ここまで進んだということを、われわれとしてはやはり確認しておかなければならない。安倍と思想的に近しい、日本会議国会議員懇談会のメンバーによるアンケート結果(『文藝春秋』一〇月号)にも、多くはないが「生前退位」や「女性宮家」に賛成する回答が見られる。明らかに、いまだ事態は揺れている。

有識者会議などでの議論の中身にも、おそらくはそれらは反映されていくだろう。もちろんこれらのすべてが、天皇制を前提とした議論でしかありえない。だがそこにも、われわれが天皇制を批判していくための具体性が、見出せるはずである。これからの事態に批判的に注目しつつ、そこで登場するさまざまな言説に具体的に介入することが、自覚的に追求されなければならない。

そして何より、この間の事態に関わって、各地で議論の場や街頭行動が持たれ始めている。私たちもそうした場を準備し、またそれらの動きにつながっていくことによって、「有識者」たちが組織する天皇制に関する「国民的な論議」とは別の批判のことばを紡ぎ出していこう。

(北野誉)

【月刊ニュース】反天皇制運動Alert 4号(2016年10月 通巻386号)

今月のAlert ◉「有識者会議」設置─ 「国民的議論」を超えることばを!(北野誉)
反天ジャーナル ◉ 映女、宮下守、D子
状況批評 ◉ 憲法学から見た天皇の生前退位問題(岡田健一郎)
書評◉池田浩士文・髙谷光雄絵『戦争に負けないための二〇章』(ほしのめぐみ)
ネットワーク ◉ 映画「チャルカ」に託す想い(島田恵)
太田昌国のみたび夢は夜ひらく〈77〉  ◉ 独裁者の「孤独」/「制裁」論議のむなしさ(太田昌国)
マスコミじかけの天皇制〈04〉 ◉ 大日本帝国憲法の「復活」と闘う─「民主天皇」という政治神話:〈壊憲天皇明仁〉その2(天野恵一)
野次馬日誌
集会の真相 ◉ 9・2 二四条かえさせないキャンペーン・キックオフシンポ/9・10-11 天皇出席の山形「海づくり大会」反対!現地闘争/9・12安倍靖国参拝違憲訴訟(東京)第10回口頭弁論9・21女天研連続講座・ジェンダーと天皇制 第4回「女性皇族の公務ー慰問?福祉?」/9・24 北村小夜さんと語り合った「学校と戦争─そこを貫く『道徳』『動員』『優生思想』」
学習会報告 ◉ 岩波新書編集部編『昭和の終焉』(岩波書店、一九九〇年)
反天日誌
集会情報

→前号の目次はこちら

*2016年10月4日発行/B5判16ページ/一部250円
*模索舎(東京・新宿)でも購入できます。

http://www.mosakusha.com/voice_of_the_staff/