【学習会報告】奥平康弘『「萬世一系」の研究 「皇室典範的なるもの」への視座』第Ⅰ部(岩波書店、二〇〇五年)

本書は序章・I部・II部でできており、今回は序章と第I部を読んだ。頁数的にもお値段的にも二回分、という感じではある。ただ、内容的には分けずにやった方が、議論はさらに面白くなったのかもしれない。いや、時間不足の欲求不満になったか……。実際、I部だけで大いに盛り上がった。

第I部「戦後皇室典範の制定過程─今日的課題の源流」の構成は、一・「皇室典範的なるもの」への拘泥─皇室典範の基本的性格をめぐって、二・「天皇の退位」「女帝」「庶出の天皇」─皇室典範の各論的考察。

一九四五年八月一五日、あるいは一九四六年一月一日の「人間宣言」を機に、「萬世一系」の天皇信仰がコロリと消滅するわけはない。それは支配者層を構成する者たちにとっても同様だ。本書では「帝国憲法」とそれに並ぶ「皇室典範的なるもの」への支配者たちの拘泥ぶりを、新憲法制定とそれに則って制定される新しい「皇室典範」制定の際の、意識・無意識な策略や見解をエピソードとして紹介しながら、あぶり出していく。「皇室法」ではなくなぜ「皇室典範」という名称を継承したか、は典型的な議論だ。そのエピソードの数々が面白い。

奥平のいう「萬世一系の天皇」という一つのイデオロギー体系が、戦後のGHQとの攻防、国会審議等を経る中で、少しずつ譲歩しながらも新憲法の体系にくい込み、現在に継承されている。それを知ることで、現在の「今日的課題の源流」を理解することもできるだろう。

各論の「今日的課題」とは、一〇年以上も経った二〇一六年現在の、支配者層が直面している課題そのものである。そして、別の立場で私たちも同様に直面している。

昨年亡くなった著者奥平が生きていてくれたら、何を語っただろうかと、唸る思いが残る。

次回は一一月二九日(火)、この本の後半部分を読む。

(桜井大子)

【今月のAlert 】「有識者会議」の討論を検証し、批判の声をあげよう!

八月八日の天皇の「生前退位」の意向を表明するビデオメッセージを受け「有識者会議」が設置された。正式には「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」。その初会合が一〇月一七日に、そして二七日に第二回会合が開かれた。繰り返しになるが、この「有識者会議」が天皇自身のビデオメッセージを受けて設置されたことは自明であり、それによって退位の制度化に向けて政治が動きだしたということを否定する者はいないだろう。これは明らかに、憲法四条に反して天皇が「国政に関する権能を有し」たことであり、違憲行為である。

だから、その指摘を回避するために、二ヶ月以上経過しての初会合の日程が設定され、名称に「生前退位」の語句を挿入しないという配慮がなされたという。聴取項目が八つ設けられ、天皇の役割、天皇の国事行為や公務のあり方、負担軽減の方法、摂政を置く是非、国事行為を委任することの是非を検討した上で、後半に、天皇の退位の是非の議論を持ってくるという順番にも考慮がされたという。

座長の今井敬経団連名誉会長は記者会見で、「天皇のご発言とは切り離して考えていく」と強調し、「生前退位」についても「まったく予断なく議論する」と発言している。明らかな天皇の違憲行為が言及されることなく、「配慮」されるものへと変質している。

有識者会議が年末までに専門家からヒアリングを行い、来年初めに「論点」を公表し、来春には「提言」を取りまとめ、それを受け政府が関連法案を提出。そして一八年一月の天皇即位三〇年に向かうという流れを政府は目指しているらしい。オリンピックまでに新天皇即位の流れが着々と準備されている。

そして、この有識者会議の議論は非公開でなされ、議事録は発言者の名前を伏せ概要のみが公開されるという。
その理由は「静かな環境で、率直に自由な意見交換をするため」ということらしいが、議論は公開されるべきであるし、議事録はすべて記録されるべきだということは大前提として、ちょっと深読みしたくなるフレーズである。発言によっては右翼の大音量の街宣車が押し掛けたり、発言した内容によっては、身の危険を感じる事態になる危惧が想定されているのかしらと。

まあ、意見聴取者一六人のメンバーの名前をみる限り、そんな心配は無用で天皇制ありきが大前提の議論で終始することは明らかだが。

そもそも天皇制は権威秩序と治安維持法等による補強政策によって、支えられてきたという歴史がある。天皇に対する敬慕といわれているものは、市井の人々から自然発生的に表れたとはいいきれないだろう。「神聖ニシテ侵スヘカラス」という帝国憲法の規定によって、弾圧に伴う暴力によって強要され、批判を許さない体制の中で維持されてきた。天皇制批判は常に身の、いや命の危険を伴う暴力と隣あわせにあった。敗戦後、国民主権によって天皇は象徴になったが、マスコミ報道の過剰な敬語使い一つを例にとっても、相変わらず「神聖ニシテ〜」の精神が醸成され続けている。

非公開について政治学者の白井聡は東京新聞で、天皇の「お言葉」とのくい違いを指摘する以下のコメントをしている。「天皇のメッセージの本質は国民の皆さんに考えてくださいということ。自分がこうしたいということではなく、より広く、天皇とは何か、国民統合の象徴とは何かを議論してほしいという趣旨だった。会議の密室性は『お言葉』と逆行する─。」と。

密室性の問題が主権者側の知る権利の不利益ではなく、天皇の意向に沿わないからよろしくないというものだ。憲法に規定されている国民主権の原則を問われる発言といえる。民主主義と天皇制の矛盾を問うどころか、天皇制が憲法に規定された制度であるという原則さえもなく、あまりにもやすやすと天皇発言に乗っかっている。護憲派天皇対極右安倍政権という図式は、結局、天皇制国家というナショナリズムに取り込まれるという危惧が、今回の天皇メッセージを巡る状況で露呈し確認されたような言論で溢れている。

憲法で謳われている人民主権の原理が、運動側においてさえ崩壊しつつあるように思う。この危機的状況下、私たちは天皇のビデオメッセージの語句を丁寧に検証し、批判の声を具体的にあげていく。恒例の12・23の集会を楽しみに!

(鰐沢桃子)

【月刊ニュース】反天皇制運動Alert 5号(2016年11月 通巻387号)

今月のAlert ◉ 「有識者会議」の討論を検証し、批判の声をあげよう!(鰐沢桃子)
反天ジャーナル ◉ (捨て猫、なかもりけいこ、大橋にゃお子)
状況批評 ◉ 象徴天皇制は「裸の王様」(山口正紀)
ネットワーク ◉ 暮らしの中の沖縄─本土に住む私たちの責任 (古荘斗糸子)
ネットワーク ◉ 軍拡予算を批判する討論集会への参加を!(池田五律)
太田昌国のみたび夢は夜ひらく〈78〉 ◉ コロンビアの和平合意の一時的挫折が示唆するもの(太田昌国)
マスコミじかけの天皇制〈05〉 ◉ なぜか天皇による違憲行為が「護憲〈平和主義〉天皇」の「お気持ち」として賛美される倒錯した〈構造〉:〈壊憲天皇明仁〉その3(天野恵一)
野次馬日誌
集会の真相 ◉ 10・8/9 山岡強一虐殺30年 山さん、プレセンテ!/10・16差別・排外主義を許すな!10・16ACTION/アンダークラス上等!非正規労働者と戦争扇動─山岡強一虐殺30年「山さんプレセンテ!」アフタートーク/10・21〈ベ平連〉その反戦交友録─吉川勇一の『非暴力直接行動への宿題』を素材に
学習会報告 ◉ 奥平康弘『「萬世一系」の研究 「皇室典範的なるもの」への視座』第Ⅰ部(岩波書店、二〇〇五年)
反天日誌
集会情報

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*2016年11月8日発行/B5判16ページ/一部250円
*模索舎(東京・新宿)でも購入できます。

http://www.mosakusha.com/voice_of_the_staff/