【学習会報告】加納実紀代・天野恵一編『平成天皇の基礎知識』(社会評論社、一九九〇年)

裕仁の重病が露呈し、「自粛」強制とともにXデー過程が開始して、天皇制の問題が様々な社会運動の中に共有されていった時期に、運動の立場から準備され、その問題意識を集めていったアンソロジーと資料集である。

明仁が即位の後に「護憲」を語ったことによって、国粋主義と侵略戦争を代表しながら戦後憲法体制において「象徴」の地位にあった昭和天皇裕仁と、「平成」を切断させようとする論が、それまで天皇制などに批判的であった人々からも流布されていった時代だ。ベルリンの壁の崩壊などの世界史的変動の時代状況とも重なって、より積極的な意味づけがされようとしていたのだ。
しかし、「平成」への代替わりは、即位や大嘗祭の経過にも明らかなように、政教分離の原則を掘り崩して、捏造にまみれた天皇制の「伝統」や皇室祭祀が、国家の正史、国家行事として現前化させられるものでもあった。その既成事実化が憲法解釈を変え、メディアを通じた天皇制への翼賛も演出されていった。

裕仁には不可能だった「国際化」が明仁天皇制に要請され、それが実現させられようとすることへの批判が、多くの論者から挙がっており、いずれも現在につながる問題意識を提示している。
中北龍太郎の「『民主主義』を飲み込む『護憲』天皇制」は、日米の支配層によって現行憲法に埋め込まれた「象徴」規定が、主権や民主主義の基幹をどれほど毀損してきたかを指摘する。天皇の存在は、解釈上は直接的な権力実体ではないとされながら、ヒトを「象徴」としたことにより、国事行為はもちろん、私的行為とされた分野を通じても、基本的人権や民主主義を食い破る存在として拡大した。戦後憲法学は、天皇制がそのようなものであることを論理的には理解しながら、天皇の存在や行動を合憲とさせるために、解釈を重ねた。

明仁は、皇太子時代から「象徴的行為」論を強調して天皇の行為を拡大解釈してきた。その集大成が八月八日のビデオメッセージだ。天皇のいう「護憲」が、そのコトバとは異なり、私たちの人権や民主主義に対立するものだということを、あらためて突き出していかねばならない。この本は所収の資料も豊富で現在も「使える」ものとなっている。

次回は二月二八日、横田耕一『憲法と天皇制』(岩波新書)を読む。手に入りやすいので多くの参加を。

(蝙蝠)

【集会案内】オリンピックおことわり! 集会とデモ

一月二二日、「二〇二〇オリンピック災害」おことわり連絡会(東京オリンピックおことわリンク)の結成集会が千駄ヶ谷区民会館で開催された。この「おことわリンク」は、昨年八月の「お・こ・と・わ・り東京オリンピック」集会報告を本欄にも掲載したが、その集会で新たなネットワーク形成を呼びかけ、数ヶ月の準備を経て作られたものだ。

集会は、「二〇二〇年まで頑張るぞ」の気持も込め、少し趣向を凝らした”Read in Speak out”。これは、発言者のみなさまにあらかじめ読み上げる文章を用意していただき、当日はそれを読み上げ(Read in)、それにコメントをつけていただく(Speak out)というもの。一人八分の”Read in Speak out”、発言者一二人、ビデオ参加三人。発言者の数だけオリンピックに対する視点も提示され、とても興味深く、また面白く、次々と違う課題が提示されるにもかかわらず、すんなりと頭に入ってくるリズムの良さがあった。登壇される方の準備はとても面倒なことだったと思うが、とてもいい集会だった。

同会の鵜飼哲による主催者あいさつから始まり、発言者は以下、谷口源太郎(スポーツジャーナリスト)、北村小夜(元教員)、山本敦久(成城大学教員)、江沢正雄(オリンピックいらない人たちネットワーク)、友常勉(東京外国語大学教員)、なすび(被ばく労働を考えるネットワーク)、いちむらみさこ(Planetary No Olympics Networks)、井上森(立川自衛隊監視テント村)、池田五律(戦争に協力しない・させない練馬アクション)、根津公子(「日の丸・君が代」被処分元教員)、小川てつオ(反五輪の会)、映像発言として、ピョンチャン冬季五輪に反対する方、脇義重(元いらんばい!福岡オリンピックの会)、金満里(劇団態変)。最後に、「東京オリンピックおことわり宣言」を全体で確認した。

集会前には、おことわリンクにもメンバーが参加している反五輪の会主催のデモが企画され、デモ・集会と連続の行動となった。デモでは不当逮捕という弾圧も。非拘束者は三日で釈放されたものの、オリンピックが単なるスポーツイベントではないことが、逆に見えてくるような状況もつくり出された。詳細は、反五輪の会、おことわリンクの抗議声明を参考にされたし。
おことわリンクのブログには、当日の集会の模様が動画等々ですでにアップされている。集会の詳細もあわせ、ぜひそちらをご覧ください。

http://www.2020okotowa.link/

(大子)

【集会報告】再稼働阻止ネット全国相談会と関電包囲行動

一月二一〜二二日の土・日、「再稼働阻止全国ネットワーク」の全国相談会が大阪で開催された。これは二二日の「高浜原発うごかすな!関電包囲全国集会」とデモ(主催・実行委)にあわせて持たれた行動である。

高浜原発再稼働をめぐる攻防は正念場を迎えようとしている。反原発を闘っている人々をはげました司法の決定(大津地裁の3・4号機仮処分決定の判決)、これの大阪高裁での逆転をねらっている関西電力に対して、大きな抗議の声をぶつけるための集まりだ。

中之島公園での集会(四五〇人参加)の後、すぐに関電ビルに向かってのデモ行進、スタートと同時に雨が降り出したが、グショグショになりながらの力強いデモ行進が繰り広げられた。その後、強風吹きすさぶ中で二時間近いビル前抗議集会。それでも怒りの抗議行動に参加する人は、増大することはあっても減ることはなかった(主催者発表千人参加)。

「全国相談会」は、高浜原発再稼働阻止のための全国的協力体制づくりのための「相談」のみならず、川内・伊方・玄海・泊などの原発立地各地の、力強い戦いの報告が〈交流〉する場となった。首都圏からの参加者は三一名、関西からの参加者は三五名、全国各地の参加者は二四名。

原子力規制委(各地支部)、電力会社(各地支店)への全国同時抗議行動のプラン。全国的に取り組む抗議ハガキ活動など、「相談会」ではおなじみになりつつある行動についての確認と調整がなされた。次回の相談会については、原発ターゲットの集まりではなく、再稼働をめぐる〈3・11〉以後の長い活動の運動的総括を(分科会方式での緻密な討論の場をつくる)。そういう方針が、首都圏側から提起され、東京で四月・五月中にというプランが全体で確認された。

二日後に東京で「再稼働ネット」の事務局会議が持たれたが、大阪行動への参加者の五人が風邪で欠席(ただし闘病中の私は幸運にも風邪をひかずにすんだ)。とにかく、たいへんな闘いであった。

(天野恵一)

【今月のAlert】動き始めた天皇「代替わり」スケジュール 天皇も天皇制もやめろ!

明仁自身が主導して始まった「代替わり」状況のなかで、その天皇の意思をうけて具体的にそれをどのように進めていくか、政府と国会の動きが急である。

明仁の退位と新天皇の即位の日付をめぐっては、それを二〇一九年の元日におこなおうとする政府と、「それは困難」とする宮内庁との間で、若干の「応酬」もあったが、二〇一八年中の退位と新天皇の即位(いわゆる「践祚」)、二〇一九年の「即位の礼・大嘗祭」という方向性が一方的に示された。

「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」は、一六人へのヒアリングを経て、一月二三日に「論点整理」を公表した。三月中には最終答申が出る見込みだという。その結論は、やはり安倍官邸の規定方針と言われる「一代限りの特例法」へと論議を集約するものだった。

これに先立って国会では、衆参両院の正副議長が「国会内で与野党の幹事長らと会談し、天皇陛下の退位に関する法整備について今後の議論の進め方を協議した。正副議長は、二月中旬以降に各党の意見を個別に聴取し、三月上中旬をめどに意見集約したい方針を伝え、各党は了承した。……政府は春の大型連休前後に退位に関する関連法案の提出を目指しており、国会審議の前にできる限りの合意形成を図りたい考えだ」(毎日新聞、一月二〇日)。

衆院議長の大島理森は、各党にたいして「天皇の地位は国民の総意に基づくもので、その総意を見いだすことが、国民の代表機関の立法府の重大な使命だ」と呼びかけている。「皇室の問題を政争の具にしてはならない」「静かな議論を」という論理による、完全な談合である。

けれども、一月二六日の衆議院予算委員会においては、民進党の細野豪志代表代行が質問時間五〇分の約七割を天皇退位問題に割いた。

細野は「ご譲位に国民の九割が賛成をしているが(有識者会議の)ヒアリング対象者一四人のうち六人が反対意見を述べている。バランスが悪くないか」「天皇陛下を含めた皇室の皆さんの人権をどう考えるのか」と安倍に質問している(産経電子版、一月二六日)。民進党などの野党の主張は、「一代限りの特例法」ではなく、「皇室典範の改正が本筋」というものだ。かつては天皇の「公的行為」の違憲性を問題にしていた共産党も、いまや国会開会式へ出席して天皇に頭を下げており、天皇制に批判的な議会内勢力はもはや不在である。天皇の考えを「しっかり忖度」すべきと細野が言い、それは「玉座を胸壁となすこと(天皇を盾に相手を攻撃すること)につながる」と安倍が答える。安倍の言葉は、尾崎行雄が桂内閣を弾劾したときのもので、一〇〇年以上も前のやりとりが再現したような言論状況に、空恐ろしさを感じるばかりだ。そして、私がこのことを知ったのは「産経抄」というコラムによってであって、しかもそこでは「陛下のご意向を反映させるばかりでは『天皇は国政に関する権能を有しない』と定める憲法と矛盾する。政府が『忖度』で突き進めば、国家権力の恣意的行使を制約する立憲主義にも反することになろう」(産経新聞、一月二八日)などと書かれていることも、使えるものはなんでも使うご都合主義だけが浮かび上がる。

いま現出しているのは、まさに「天皇翼賛国会」そのものである。私たちはもちろん、天皇の退位それじたいに反対しているわけではない。それが、天皇制の安定強化のためになされることに反対なのだ。われわれは「天皇も天皇制もやめろ」とはっきりと言わなければならない。

こうした中でわれわれは、2・11反「紀元節」行動をもって、今年の反天皇制の街頭行動を開始する。そして3・11 の「東日本大震災追悼式」にたいしては、今年も反戦反天皇制労働者ネットワークのよびかけで準備が開始されている行動に合流し、東電前で声をあげていきたいと考えている。この追悼式典だが、震災発生後五年がすぎたので、これまでのような天皇出席行事ではなくなり、今年から秋篠宮が出席することになった。普通なら、天皇行事から皇太子行事への「格下げ」になるところだが、一つ飛ばして秋篠宮となるのは、もつろん新天皇の即位後、秋篠宮が皇位継承者第一位になるからで、実質的な「皇太子化」の先取りというべきものだろう。

そして明仁天皇は 、二月二八日から一週間、ベトナムとタイを訪問する。詳しく展開する余地はないが、これが、昨年のフィリピンに続き、日米安保体制のもとでの対中国戦略と深く関わっていることは疑いないところだろう。そして、またベトナムは、「太平洋戦争」開戦前夜の一九四〇年に日本軍が侵攻し、強制的産米供出政策によって大量の餓死者を出した場所でもある。「生前退位」にもかかわらず、あるいはそれゆえに、天皇(皇族)はきわめて活発に動いている。天皇制反対の行動を、ひとつひとつ持続していこう。

(北野誉)

【月刊ニュース】反天皇制運動Alert 8号(2017年2月 通巻390号)

今月のAlert ◉ 動き始めた天皇「代替わり」スケジュール 天皇も天皇制もやめろ!(北野誉)
反天ジャーナル ◉ ─岡田健一郎、虚偽・ヘイトは「意見」ではない、映女
状況批評 ◉ こんなものを放置しておくとロクなことにならない(加藤克子)
太田昌国のみたび夢は夜ひらく〈81〉 ◉ トランプ政権下の米国の「階級闘争」の行方(太田昌国)
マスコミじかけの天皇制〈08〉◉ 民主主義に皇室制度はいらない!:〈壊憲天皇明仁〉その6(天野恵一)
書評 ◉ 「日本陸軍のアジア空襲―爆撃・毒ガス・ペスト」(梶川凉子)
ネットワーク ◉ 警視庁機動隊の沖縄への派遣を問う─住民監査請求から訴訟へ (岩川 藍)
野次馬日誌
集会の真相 ◉ 1・21日-22日再稼働阻止全国ネットワーク全国相談会1・22五輪ファーストおことわり!オリンピックやめろ!デモ/1・22オリンピック災害おことわり! Read in Speak Out1・22高浜原発うごかすな!関電包囲全国集会/1・24辺野古新基地建設工事再開を許すな!大成建設抗議行動/1・29安倍政権は辺野古新基地建設を断念しろ!新宿デモ
学習会報告 ◉ 加納実紀代・天野恵一編『平成天皇の基礎知識』(社会評論社、一九九〇年)
反天日誌
集会情報

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*2017年2月7日発行/B5判16ページ/一部250円
*模索舎(東京・新宿)でも購入できます。

http://www.mosakusha.com/voice_of_the_staff/