本紙前号(11 号)の「ねっとわーく」に、安倍靖国違憲訴訟弁護団事務局長の井堀哲弁護士に訴訟の概要から経緯、判決についての報告をしてもらいました。その違憲訴訟の会・東京事務局が『即位・大嘗祭Q&A天皇代替わりってなに?』というパンフレットを刊行しました。そのご紹介です。
昨年八月に放映された天皇が退位の意向をにじませた「お言葉」ビデオメッセージは、天皇退位特例法案として一つの法律を成立させるにいたりました。衆参両院どちらも野次一つ飛ぶことなく、粛々と審議が執り行われているという演出のなかで可決。「国民の総意」に基づいたものとするために、政府と与野党が事前調整を行い議論しないという事態は、まさに「翼賛国会」そのものです。
静まりかえった審議の様子は心底気持ちの悪いものでした。
このパンフは四月二一日に有識者会議が首相に最終報告をした一週間後の二八日に発行。その素早い対応に脱帽です。またその日は訴訟の判決の日でもあって、事務局の方々は多忙極まる日々だったと思います。
発行者が「小さなパンフ」をつくりましたと述べているとおり、A4版を二つ折りにしたとてもコンパクトなサイズ。表紙は真っ赤なコート紙の中央に対比するように真っ黒の四センチ幅の縦帯。そこに縦書きの白い文字があしらわれています。コントラストがハッキリしていてシャープな印象です。
裏表紙が目次になっていて、一六の設問が横書きに記され、一目で全体を把握できるようになっています。
設問一つに対して、見開き二ページで簡潔。そこに関連する写真(設問一六は図)が一枚掲載されているので、文字だけがぎっしり詰まっていて、「つまらなさそう〜」という印象ではなく、写真集とまではいかないけれども、視覚で楽しむこともでき、解説も読んでみようという気にさせてくれるところが嬉しい。文字が大きいなど作り手の読んでほしいという思いが随所に感じられる作りになっています。
靖国問題と天皇制問題は決して切り離して語ることは出来ません。このパンフの中身は違憲訴訟の会だからこその視点で、設問の立て方、提議の仕方がなされています。この種のエキスパートたちが培った経験と膨大な知識がなければ、クルクルと丸めてポッケに入りそうなサイズでありながら、これ一冊で即位にともなう問題を網羅できるものはなかなか作成できないと感心させられました。
「私たちの安倍靖国参拝違憲訴訟の論点の一つは、『国が特定の宗教と結びつく』政教分離問題にありました。天皇の『代替わり』がマスメディアを賑わすなかで、天皇代替わりに関する政教分離問題に対する指摘が余りに少ないことを、私たちは懸念しています。まずそのことを訴えたい」と冒頭にこのパンフを出版する思いが記されています。
この間の象徴天皇制をめぐる言論状況は暗澹たるものです。そのような時代にあって、当然のように執り行われるであろう即位にともなう儀式の問題性が分かりやすく解説されています。
「即位の礼」や「大嘗祭」「宮中祭祀」など天皇用語の解説が、必然的に天皇制の宗教性をあぶりだしています。即位するということは、何かの役職に就任するということとは明らかに違う、神懸かり的なものであることに改めて気づかせてくれます。
設問の一つ、Q4「大嘗祭」ってなに?では、折口信夫の「真床襲衾」(まどこおぶすま)論を紹介しています。
「ー-天照大神を迎え、神膳共進と共食儀礼を中心とする祭祀を行い、天皇霊を身に受けて天皇が神になるということ」という折口論を受け、「大嘗祭は、現人神を生み出す宮中祭祀の中心的宗教儀式です」と結んでいます。
憲法で規定された象徴天皇と宮中祭祀で現人神となる天皇。
アキヒト天皇の祈りは現人神の祈りということになるのかしら! ?だって、大嘗祭の儀式は二二億円も掛けて行われたんですよね。
伊勢神宮を舞台にしたG7のパフォーマンスのように、天皇の即位にともなう数々の儀式は、日本の伝統、文化として国内だけではなく、世界に向けて大々的に宣伝されることが予想されます。
即位にともなう儀式の問題のポイントをしっかり押さえられるパンフです。
●二〇一七年四月、安倍靖国参拝違憲訴訟の会・東京事務局編・発行
yasukuni2013@gmail.com
(鰐沢桃子)