【学習会報告】ケネス・ルオフ『国民の天皇:制度と個人のはざまで』(岩波現代文庫、二〇〇九年)

著者は北海道大学で教鞭をとり日本滞在の経験もある米国人、ケネス・ルオフ。 膨大な資料に目を通した実証主義の本としてとても面白かった。〈注〉が七七ページもあり、参考文献も読書意欲をかき立てると参加者の声。

「大衆天皇制」が中心テーマで、戦後日本の象徴天皇制がどのような過程を経て「国民」の間に定着していったかが記されている。この著作が最初に出されたころにピューリッツァー賞を取った、ハーバート・ビックス『昭和天皇』は天皇制の政治的役割を追跡したものであるが、本書は制度としての戦後天皇制の改編を分析したものだとルオフは語っている。

戦前と戦後の連続性にスポットをあて、外国の君主制とくに英国の立憲君主制との比較を通して分析がなされている。 そして特に面白かったのが、右派、民族派の運動に注目している点である。右派の団体がしばしば合法的なルートを使って、政治的影響力を発揮した経緯を軽視ないし無視してきた歴史記述を修正する作業は、九州の片田舎で農業や左官業、理髪店を営む青年らを紹介し、全国に広がる草の根運動が元号法という天皇制に絡む法律の制定に至ったことを明らかにする。

この学習会でも頻繁に名前があがるような天皇(制)論を語った学者たちの整理も簡潔で、私のような不勉強な者にはガイドブックとしても便利だ。昨今流行の学者が、象徴天皇制は明治以前の伝統だなどと発言しているのを目にするが、政治的右派はそうした解釈により戦後の民主体制を受け入れてきた。まさにその過程が記されている。そして近代以前の伝統への回帰ととらえるのは問題があるというのだ。報告の後はタイトルについて「国民」じゃなく「人民」がよかったのではないかとか、「文庫版のためのエピローグ」に憤慨する者や、否その理解とは違うなどとワイワイと盛り上がった。監修高橋紘。季刊『運動〈経験〉』10 号の吉田裕論文とあわせてお読みいただきたい。

次回は「天皇制を考える」(新教出版社)

(桃色鰐)

【書評】安倍靖国参拝違憲訴訟の会・東京事務局『安倍靖国参拝違憲訴訟・東京第一審記録集』

この「安倍靖国参拝違憲訴訟」については、すでに昨年一〇月と今年二月には大阪訴訟の一審・二審判決が出され、さらに、今年の四月に東京訴訟においてもひどい一審判決が出されたことは「Alert 」11 号や、その他でも報告されている通りです。

現在、東京訴訟では二審の手続きに入り、大阪訴訟でも最高裁に向けた取り組みが開始されていますが、全体の情勢は「安倍忖度」も深まり、とうてい、希望を抱かせるものではありません。

しかし、こうした現実に対する違憲訴訟を提起することは、ただ法廷での「結果」だけの意味にとどまるものではないことはご存じのとおりです。私たちが取り組んだ、この東京での違憲訴訟においては、海外を含む多数の原告や、法律・歴史学の専門家証人によって、重要な問題提起がなされており、それ自体が意味を持つものだということを、改めて強調したいと考えます。この「一審記録集」は、B5判並製・三一六ページ・四段組みにわたり、二〇一四年から今年までの闘いの記録がまとめられています。

裁判所は、このような多数の原告が立った裁判では、極力、書面提出のみにさせ、要旨の朗読のみを制限された時間内で処理しようとします。しかし、弁護団と事務局は、ぎりぎりまで、できるだけ多数の証言を実現させようと努力を重ねました。専門家証人の吉田裕(歴史学)、青井未帆(憲法学)、木戸衛一(歴史学)、南相九(歴史学)、張剣波(歴史学)の各氏の証言は意見書提出とさせられましたが、この記録集には、この専門家意見書に加え、実現された原告八名の意見陳述、原告二十二名の本人尋問の発言内容が全文掲載されています。

憲法訴訟の記録集、なおかつ大部の資料だということで、原告や法曹関係者以外は手に取りにくいものと思われるでしょう。訴因の法的根拠などを述べる弁護側の書面や、判決文などにおいては、そのことだけを取り上げるならば確かに否定しづらい面はあります。しかし、今回のこの訴訟においては、口頭弁論が重視され、多数の原告が意見書を提出し、法廷において自ら意見陳述に立っていったのでした。

この原告たちの証言は、いずれも、とても熱のこもったものでした。そして、何よりも強調したいのは、これらの証言が、自らの具体的な個人史に裏打ちされたものであり、歴史的な事実を述べるときにも、政治に対する危機意識や憤りを語るときにも、きわめて同時代的に、ひと一人の尊厳を懸けた発言内容であったということです。

大日本帝国による戦争が、侵略と植民地支配によりひとを殺害し、またはその手先とさせられて「戦死」させられたという事実は、靖国により「戦没」者がその名を奪われ「× × 命(ミコト)」と改変されて「祀られ」、観光客に向けて遊就館に「陳列」されているシロモノが示す意味とは、まったく次元を異にするものです。死者が誰であったのか、その死をどのように受け容れさせられようとしたのか、そしてその死者を誰がどのように利用して、虚偽そのものでしかない「歴史」や政策、妄動や暴力の煽動へと変えていったのか、それこそが靖国でありこれを明らかにして否定することこそが、この裁判の意味でもありました。

証言に立った原告たちの多くは高年齢層であり、枯れた柔らかな印象の方たちです。しかし、その胸の裡に持ち続けている悲しみや怒りが証言の言葉として迸るのを、傍聴席で聞いていて、思わず息詰まり涙ぐむことをしばしば抑えられなくなりました。こうした訴訟がなぜ必要なのか、裁判という場をかりて、ひとの歴史をつないでいくことの意味を、深く考えさせられました。

政教分離原則や、信教、思想信条の自由、平和的生存権や人格権など、原告の権利や法益のあらゆる点が、一審判決では無視され足蹴にされましたが、この裁判は、最初に触れたようにまだ継続中です。そして、あらためて強調したいのは、この裁判のみならず、あらゆる方面から、私たち自身の生と歴史の意味をつき出していくことの重要性です。もし憲法訴訟に敷居の高さを感じる方がいるとすれば、それは誤解です。歴史をつなぐこと、憲法を生かすということが、一人の人間においてどのようなことであるか、ほんの一端でも、この記録集の原告証言や弁論からくみとっていってほしいと、心から願います。

二〇一七年八月一五日発行、二〇〇〇円申込先:〒202-0022 東京都西東京市柳沢2-11-13
郵便振替口座:00170-2-291619
http://seikyobunri.ten-no.net
mailto://noyasukuni2013@gmail.com

(のむらともゆき)

【今月のAlert】「平成流象徴天皇制」の「努力」に対抗する運動を!

衆院選は自民党が単独で過半数を獲得し、自公で三分の二の議席を維持する圧勝だった。前回と同じく今回も自民党が最終演説を行ったのは秋葉原。多数の「日の丸」の旗に出迎えられ、北朝鮮の脅威をあおる安倍の演説に高揚する人々の姿に心のざらつきを覚えたのは私だけではなかったはずだ。安倍の言う「国難突破解散」は、学校法人「森友」「加計」問題による支持率低下を瞬時のものとしてしまった。「外敵を見出して国難を叫び、他国との緊張関係を高めて自国内で自らの権力強化を狙う指導者は枚挙にいとまがない」と政治学者がコメントしているが、まさにそのような選挙結果であった。戦後二番目の投票率の低さだったというが、年齢が低下するほど安倍の支持率が上がるということに、これまたざわざわと心穏やかではいられない。

今回自民党や希望の党の対抗軸として立憲民主党が躍進した。改憲に「NO」を唱える人々の票もそこに流れたことは間違いないであろう。しかし、枝野が民主党時代九条改憲を提示していたことはやはり記憶しておくべきだろう。九条改憲を巡る政治状況が今迄とは明らかに違う時代に入ったということは認識する必要があると思う。今のところ世論調査では九条に自衛隊を明記することに五二%が反対しているということだが、「安倍政権下では反対」だという声に注視していきたい。

そんな選挙戦の投票日の前々日である一〇月二〇日、朝日新聞は天皇退位の日程を一九年三月末と一面トップで報じた。その翌日には(東京)(毎日)(読売)各新聞もこぞって掲載した。この時点で菅義偉官房長官は選挙前でもあり否定をしたようだが第四次安倍内閣も発足し、すでに皇室会議の日程調整に入っていると思われる。

一一月以降に皇室会議を経て(共同、読売では一二月との報道)、退位と改元の期日が決定され、一八年中に新元号公表。一九年三月三一日に天皇退位、四月一日に皇太子ナルヒトが新天皇に即位し、新元号が施行されるという流れが予想されている。

一時浮上していた一八年の退位は、年末年始の宮中行事が立て込んでいる時期で物理的に難しいとか、アキヒトが一九年一月七日予定の『昭和天皇三十年式年祭』を自身でやることを強く望んでいるので、それまでは天皇でいたいからだとか、漏れ伝わる情報で真意のほどは定かではないが除外されたとみていいだろう。

今号の学習会報告で紹介したケネス・ルオフ著『国民の天皇』は、象徴天皇制が如何にして人々の間に浸透していったかを記するなかで、皇室も「国民」に受け入れられるように努力してきたという(学習会報告参照)

いわゆるアキヒト「生前退位」メッセージから、その日程が具体化してきた今日に至るまで、こと天皇に関しては完全に翼賛体制化している実態を随所で見せられる私たちであるが、それもアキヒト・ミチコの「平成流象徴天皇制」の「努力」がなし得た成果の一つであることに間違いない。

では一体その「努力」とはどのようなものなのか。ルオフは天皇夫婦の行動目標は、社会の片隅に追いやられた人々を引き出すことと、戦後を終わらせることの二つであるという。実際、被災地巡行を熱心に行い、かつての激戦地を尋ねる旅を続けた。そして、それが象徴の務めであると天皇自ら象徴規定をするほどに使命とし励んできたのだろう。

そのような天皇制を私たちはいらないと否定している。それはなぜなのか!その理由を自由に語らせてほしい。しかしそれを許さないのも天皇制だ。

天皇制はあらゆる側面に渡って修正が施され、近代化されてきたという。時代とともに変化してきた。そして反天皇制の運動も、その変化に対抗しその都度模索し思考してきた。これは否定することが出来ない抵抗運動の歴史だ。積み重ねられてきた議論は決して無駄ではなく、新しい仲間を繋ぐ力であると思っている。現在反天皇制の声をあげるのは少数者となってしまった。けれどもここ数年、新しい参加者が毎回増えていることも事実なのだ。

強制的に植え付けられた価値観を取り払い、私は天皇制から解放されたい。新しい天皇はいらない。終わりにしよう天皇制、仲間とともに!

「終わりにしよう天皇制」11 ・26 集会デモと、恒例の12 ・23 集会に来てね!待ってます!

(鰐沢桃子)

【月刊ニュース】反天皇制運動Alert 17号(2017年11月 通巻399号)

今月のAlert ◉「平成流象徴天皇制」の「努力」に対抗する運動を!(鰐沢桃子)
反天ジャーナル◉横山道史、ななこ、大橋にゃお子
状況批評◉「象徴」の統合力についての一考察:ポスト「平成」期の天皇制批判運動のために(鵜飼哲)
ネットワーク◉ピープルズ・プラン研究所連続講座「〈平成〉の代替わりの政治を問う」(米沢薫)
書評◉「安倍靖国参拝違憲訴訟・東京第一審記録集」(のむらともゆき)
太田昌国のみたび夢は夜ひらく〈90〉◉山本作兵衛原画展を見に来たふたり(太田昌国)
マスコミじかけの天皇制〈17〉◉安倍政権の「退位特例法」づくりに対する美智子皇后「感謝」の政治的意味:〈壊憲天皇明仁〉その15(天野恵一)
野次馬日誌
集会の真相◉10・4 おことわリンク講座・第4回「オリンピックはスポーツをダメにする!? /10・15 差別・排外主義を許すな!10・15Action/10・28-29 全国豊かな海づくり大会(福岡)反対集会
学習会報告◉ ケネス・ルオフ『国民の天皇:制度と個人のはざまで』(岩波現代文庫、二〇〇九年)
反天日誌
集会情報

→前号の目次はこちら

*2017年11月7日発行/B5判16ページ/一部250円
*模索舎(東京・新宿)でも購入できます。

http://www.mosakusha.com/voice_of_the_staff/