【学習会報告】思索者21『天皇と神道の政治利用:明治以降の天皇制の根源的問題』 (花伝社、二〇一九年)

 本書は「思索者21」というグループによる共同研究の成果ということだが、これは法学者である土屋英雄筑波大学名誉教授を中心とする研究会のようだ。

 安倍政権などによる天皇利用による復古、それに対して護憲の立場から危惧する天皇という図式は、もはやありふれた道具立てである。本書の立場も明らかにそうで、いちいち引っかかる点が多く、楽しい読書ではなかった。ただ、それ以外の部分については、国家神道の歴史についても政教分離や主権在民原則についても、オーソドックスともいえる整理が続く。そのほとんどは整理にとどまり、著者たちの主張が前面に出ているとはいえない(学生のレポートを読んでいるようだという感想もあった)が、その点だけは「使える」部分はある。

 政治権力と天皇との関係の説明は、明治維新以来の「天皇を利用の道具と見るのは長州系の伝統」という、かなり雑な根拠によっている(安倍も長州系であるとか)。明治維新で、討幕派が天皇を玉として使ったというのはその通りだろう。「制度としての政治利用」が構造化されたのが近代天皇制であるといいたいのかもしれない。だが、そうであればなお、近代天皇制国家における天皇という存在は、国家の外にある操作可能な道具とはもはや別物であることが意識されてもいいのではないか。

 本書の主張でいけば、象徴天皇制とは、天皇の政治利用の余地を断つものとなるべきということになろう。しかし、天皇の行為を「内閣の助言と承認」で縛ったことが、逆に天皇の政治利用の回路を保持することになったと整理され、天皇の「代替わり儀式」が登極令に基づいて行われたのも、神権政治への復古を図る政治による天皇の利用だという。それだけでなく、生前退位をめぐる天皇の発言は、憲法を擁護し尊重するものであって憲法九九条に則った行為である、自民党の憲法草案で天皇の憲法尊重義務を外したのは、そういう形で天皇が憲法に加担することを阻止するためではないかと推測するに至っては、もうねじれ切っているという感想しかもてない。

 書名にある「天皇」と「神道」という近代国家の統合装置のありようは、それぞれ位相も異っていよう。そのそれぞれが近代国民国家においてどのように機能してきた(きている)のかということは、具体的に問われるべきである。「政治利用」を出発において、結論的にそのことを確認しているだけではすまないのではないか。

*次回は遠藤正敬の『天皇と戸籍』を二月一八日に読む。    

 (北野誉)

【今月のAlert 】ヘイトと権威主義のパンデミックこそ警戒し対抗しよう

 これまで感染症が世界的に蔓延していった経過には、単純な交易にとどまらない植民地などの経済政策が大きな役割を果たしたことが知られている。その罪はいまだ償われておらず重大である。しかし、病気を媒介するのが細菌やウイルスなどであれば、少しばかりの公衆衛生や治療環境の整備と、個々人の日常的な対応によって、その危険性のほとんどは抑え込むことができるというのが現在の知見だろう。もちろん、それすらも叶わないことがしばしばあるというのは、疾病における歴史的社会的不正なのだが。

 これらなかなか達成が及ばない現実を前提としながらも、それをさらに「悪性」のものとしていくことは許されない。短期間の国際的な「緊張緩和」が過ぎ去ると同時に、反動として憎悪と恐怖の政治がやはり国際的に巻きおこされ、その繰り返しとともに自由や平等といった価値が毀損させられていくというのは、これまでにも何度もあったことだが、その頻度が増しているのは、やはり「情報化」と人の移動が独占資本と独裁国家の下で大々的に展開されている、今世紀の二〇年のことだろう。いま、中国湖北省武漢市での「新型肺炎」のウイルス感染の発生を前に、きわめて醜悪な社会的状況がつくられている。

 それは例えば、感染者にとどまらない中国人全般に対する世界的な「嫌悪」としてすでに現れている。中国などの経済的政治的影響力の増大に対する「警戒」の言説は、これまでもあったが、アメリカのトランプ政権のめちゃくちゃというしかない「自国優先」と他国を敵視する政策によりさらに拡大した。「敵国」をつくり出すことにより権力者への求心力をもたらそうとする政策は、独裁体制において顕著だが、これが世界的に拡がっている。国内的には、それは他者に対するヘイトとなり、とりわけ日本国家の中では、在日コリアンや中国・韓国・朝鮮人たちに対して限りなく拡大するヘイトクライムとなっている。現在それは、人の移動ばかりでなく中国に関連する多数のものの「入国禁止」を求めるゼノフォビアの言説として繰り広げられつつある。ウイルスによってもたらされる疾病や症状よりも、インターネットことにSNSによって広げられ流通する「嫌悪」や「恐怖」のほうが、ウイルスよりも「変異」が早く、そのもたらすものは、すぐに発現しないとしても個人や社会の中に深く沈潜して、おぞましい結果を生みだしていくのではないか。

 インナーサークルに利権をもたらし、少しでもその利害に背くものには、脅迫や懲罰的権力の発動を平然とする安倍の支配体制が、揺らぎながらも、その飛沫によりむしろ腐敗をまき散らすかっこうで続くなか、こうした社会情勢を利用しようとする策動もまたなされている。典型的には、徳仁の即位のさいの「国民祭典」において延々と「万歳三唱」を繰りひろげた伊吹文明による、憲法に「緊急事態」の条項を加える形での改憲策動である。今回の一月三〇日の発言におけるそれは、もちろんすぐさま批判を浴びているが、感染症のひろがりや、自然のもたらす大災害の発生など、あらゆる機をとらえ社会不安をかき立てながら、いつなんどきリアルなものとして立ち現れるかは予断を許さない。

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 私たちは現在、二月一一日の「紀元節」には「代替わりに露出した天皇神話を撃つ!2・11反『紀元節』行動」を、さらに、徳仁の誕生日である二月二三日には、これまでの代替わり過程に力を尽くしてきた「おわてんねっと」を締めくくる「天皇のいない民主主義を語ろう」討論集会を開催しようとして準備中だ。

 それぞれの集会の開催の主体こそ違え、めざすところは同じものをさしている。恥知らずで野放図な政治や資本の暴力と、それにぴったりと寄り添う天皇制の権威主義的国家は、「他者」を閉じ込め、批判者から自由を収奪しながら形成されていく。これらを許さない取り組みを、ほんの少しずつでも拡大し影響をもたらしていこう。あらためて集会への参加と開かれた議論を呼びかけたい。

(蝙蝠)

【追悼】湯浅欽史さんの思い出

 湯浅欽史さんが去年11月23日に84年の生涯を終えたという連絡は、かつての小さな読書会「技術論研」のメンバーから来た。その集まりが、私と湯浅さんの酒をまじえた出会いの場であった。その会場は、反天連のスタートの空間でもあった「高円寺ボックス」。会のネーミングはいつだったか忘れてしまったが、戸坂潤をとりまとめて読み続けていた70年代後半、早大の理工系の大学院生らとのほんの数人の読書会からそれは始まった。戸坂ら「唯物論研究会」の「科学技術論」と新左翼にも強い影響を与えた武谷三男らの技術論とを比較検討し、熱心に論議していた。都立大の造反教官だった、「たまごの会」で活動していた湯浅さんらのそこへの参加は、「理論」研究の場からリアルな科学・技術論の検証の場にそこを転換させる契機となった。反原発・反コンピュータのテキストをあれこれ読み漁り、討論する時間が何年も続いた。

 長く没交渉になっていた湯浅さんと再会させたのは〈3・11〉原発震災であった。私は病身を引きずって反原発運動にも突入し、その渦の中で原子力資料情報室を手伝っていた、すでに心臓手術後の彼と、また交流しだした。今度は酒ナシでゆっくりと。私がかんでいる「再稼働阻止ネットワーク」のニュースの制作を彼は死の直前まで積極的に手伝ってくれていた。雑務をとてつもなく律儀に、楽しげにこなす人であった。原理的エコロジストなのに、タバコと車(それもスピード運転)が大好きといった、奇妙に分裂的人生をニコニコ生きた不思議な人でもあった。

 ただ〈あの時代〉から「全共闘」の問いに答えるべく〈思想と行動〉の人生を生き、土木工学の専門研究はやめ、専門論文はまったく書かなかった人であったこと。私はこの点を忘れるわけにはいかない。

 僕は、もう少しガンバレそうです。湯浅さん。

(天野恵一)

【月刊ニュース】反天皇制運動ALERT 44号(2020年2月 通巻426号)

今月のAlert ◉ヘイトと権威主義のパンデミックこそ警戒し対抗しよう(蝙蝠)

反天ジャーナル ◉ (よこやま みちふみ、ななこ、橙)

状況批評 ◉ 文化・伝統のレイシズム(小倉利丸)

書評 ◉ 福富節男『僕がデモ屋になったわけ』について(有馬保彦)

太田昌国のみたび夢は夜ひらく〈116〉◉ ひたひたと社会に浸透する〈いかがわしさ〉(太田昌国)

マスコミじかけの天皇制〈43〉〈壊憲天皇制・象徴天皇教国家〉批判 その8◉ 〈重臣リベラリスト〉南原繁の一九五六年 「紀元節」演述を読む(天野恵一)

野次馬日誌

集会の真相◉年末年始香港に行ってきました/五輪返上!おことわリンク走る!/護衛艦「たかなみ」の中東派遣反対現地集会・デモ

学習会報告◉ 思索者21『天皇と神道の政治利用:明治以降の天皇制の根源的問題』

反天日誌

集会情報

 

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*2020年2月4日発行/B5判12ページ/一部250円
模索舎(東京・新宿)でも購入できます。
http://www.mosakusha.com/voice_of_the_staff/