【学習会報告】山本太郎『感染症と文明──共生への道』(岩波新書・二〇一一年)

 『ミミック』と言う怪物映画がある。虫を媒介とした感染症の猛威に人類はその虫を捕食する虫を開発、虫ごと感染症の根絶に成功するが捕食した虫が怪物化して人類を襲う話だ。こう書けば誰もが、虫ごと感染症の根絶なんて、やっぱり怪物映画は乱暴で出鱈目だと思う。では感染症だけ根絶ならいいのか? 現に天然痘は根絶されている。だが著者は、天然痘が消えたことによってどんな影響が表れるかまだ分からないと言う。天然痘の存在が他の、より有害な感染症への防波堤だったかもしれないと。

 本書は文明によって感染症が人類に定着・拡大していく様を一万二千年前から現代まで、フィジーからヨーロッパ、アフリカを経てグリーンランドまでを舞台に多くの具体例で描く。病気を「ヒトの環境適応の尺度」と考えればヒトは農耕・定住に未だに適応していないとも考えられる。感染症はウイルスや細菌がヒトに適応する過程であり、幾つかの段階を経て最終的にはヒトから消えていく。身体から消えなくとも、潜伏期間が百年単位ともなれば感染しているだけで発症はない。それでいいのではないかと著者は言うのだ。私たちの国の首相のようにウイルスと「戦争」したがる者と対極の発想がここにある。

 他にも開発と感染症の関りや、植民地と医学の関りなど考えさせられる。西洋医学が近代科学足りえたのは熱帯感染症と出会ったからだとは。

 感想・議論はこの間の「感染症」をめぐる様々な事柄について行われた。そうした議論の前提として今回は脱線してこの本を読んでもいる。そろそろこの間の様々な事柄を集会なりいろんなやり方で検討すべきではないかと思っている。

 次回は、御厨貴「天皇退位 何が論じられたのか——おことばから大嘗祭まで」(中公選書)を7月21日に読む。ご参加を。

(加藤匡通)

【集会報告】6・24見せしめ弾圧を許すな 高裁結審

 一昨年一二月一二日、靖国神社外苑で「南京大虐殺を忘れるな」という横断幕を掲げ、日本の侵略戦争と軍国主義に抗議した香港のグオ・シウギさんと、その行動を撮影し配信していたフリーランスジャーナリストのイム・マンワさんはその場で警備員の手で警察に引き渡された。二人は逮捕・起訴・ 一〇ヶ月に及ぶ拘禁の末、昨年一〇月、東京地栽でグオさん八ヶ月、イムさん六ヶ月、執行猶予三年という不当な有罪判決を言い渡された。たった一分足らずの抗議行動に対する過酷すぎる仕打ちだった。二人は直ぐに控訴し、先日六月二四日、控訴審公判の第一回が開催された。

 二人を支援する、「見せしめ弾圧を許さない会」では、この控訴審に向けて二人の無罪を訴える署名を呼びかけた。コロナ感染拡大で署名をお願いする機会が皆無の約一ヶ月間、郵送とウェブだけが頼りの署名は、五八一筆。泣きたくなるような筆数だが、ウェブではたくさんの意見をいただいた。心強い思いで、公判二日前の二二日、裁判所前でのアピール行動と高裁第五部刑事部に署名を提出した。

 しかし、なんと第一回公判で結審。次回判決を言い渡される。弁護団と許さない会は、判決まで諦めずに無罪を訴えていく。彼らは、侵略戦争も南京大虐殺もなかったという恐ろしく歪んだ日本社会の歴史認識に批判を突きつけた。その二人を見せしめ的に弾圧する国家権力とそれに追随する司法を容認するわけにはいかない。彼らを有罪にすることで、この社会の歴史認識はまた一歩後退する。ともに声をあげていただきたい。

(大子)

【今月のAlert 】コロナ状況が照らし出した差別と暴力に私たちの側からの歴史の再審を!

 新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延は、それまでにも耐えきれないような腐敗状況にあった政治体制に、思いがけない方向、しかもさまざまな方向や視点からスポットライトを浴びせて、これによる社会の変化を誰の目にも明らかにさせつつある。

 まだ記憶に新しい原発事故のときにも問われた、科学や技術、技術者と、経済・社会政策の問題は、疫学や医療と医療関係者との関係の中で、さらに身近なものとして浮かび上がっている。生活者のそれぞれが、強い不安と怒りを内面化させつつ「日常」に閉じ込められている。その一方で、日銀の株や国債オペに典型的なように経済はギャンブルや投機的な性格をより強め、それを補うかのごとく、「新自由主義」が「確かな」縁故や利権に基づいた「縁故資本主義」として隠微に広がっていることも、露わになってきた。自民公明と維新による議会「政治」は、官僚と特定企業グループとの結託や、権力を掌握した「政治家」によるさまざまなレベルでの買収工作と深く結びついていることが、あまりにも数多くてあげつらうことも疲れてためらうほどにはっきり示されてきている。

 国家や社会の大きな変動のうねりをこのかん感じさせる事態として、五月二五日、アフリカ系アメリカ人のG・フロイドがアメリカのミネアポリスで警察官に首を抑えつけ締められて殺されたことに端を発した、全米から欧州など世界にも波及している抗議行動の広がりがある。

 アメリカで繰り返されてきた構造的な人種差別に基づく暴力は、とりわけ「白人」警察官による問答無用の拘束・逮捕や暴行としてこれまでにもきわめて頻繁に繰り返されてきた。公民権運動の指導者や活動家に対するテロは、公民権が一九六四年に成立したのちも、なお警察官による不当な検問や暴力として常態化しているという。「カラード」の居住区が歴然としたかたちで続き、貧困と犯罪が社会的なスティグマとして住人たちに刻みつけられてきた。「微罪」でも逮捕され、司法の場すらないまま簡単に有罪となって刑務所での服役を強いられ、危険な「前科者」「犯罪者」その「予備群」として社会的に裁断され続ける存在とされた。アメリカでは、最近の統計でもアフリカ系アメリカ人の刑務所への収監は「白人」の五倍以上で、長期刑の受刑者を対象とする矯正施設は八〇年代から州によっては民営化されて巨大な利益を生むビジネスとなっている。今回の抗議行動においてクローズアップされた「#BlackLivesMatter」、BLM運動は二〇一三年〜一四年に起きた警察官による「黒人」の射殺からはじまったが、そのことは、これらの事態がオバマ政権下でも緩和されず、トランプ政権下で拡大したということを明らかにしている。

 BLM運動は、いま、アメリカの奴隷制の歴史や、さらに、ヨーロッパによるアフリカの収奪と植民地化に対する厳しい再審を求める声や行動としても高まっている。大日本帝国の成立史は、こうした欧米の植民地政策史に同時代的に連なっており、日本のアジアにおける侵略と植民地化、戦争の歴史は、いまも謝罪されず償われることのないままにある。その過程において、天皇制、天皇や皇族そしてその権力を行使してきた者たちが果たした役割は、あらゆる機会をとらえて厳しく批判されなければならない。侵略者や植民者、奴隷制を代表する連中の「銅像」が引きずり倒される光景を、このかん何度も報道で目にしたが、私たちの側からも、その歴史的意義を見つめなおそう。東アジアの独裁国家体制に日本が果たした役割は重大だし、彼我の現在の姿はますます相似しているのだから。

 いま私たちは、毎年の八月一五日の反靖国行動に向けた準備に取り組みを開始している。今回は、前段集会として、こうした政治状況と正面から向き合いつつ「コロナ危機と天皇制」と題した集会をもち、北村小夜さんに「慈愛・慈恵」と天皇制について語っていただく。この問題では医療現場からも重要な問題が指摘されており、そこからの報告も予定している。川崎市ではヘイトに対する罰則付きの条例が有効となったばかりだが、いま、東京では、悪質な歴史偽造を重ね、朝鮮人虐殺の事実を否定する連中に宣伝の場を提供してきた小池百合子を含め、極右のヘイト活動家らが都知事選挙の場で差別発言を繰り返している。これに靖国派の極右団体を加えた連中の攻撃のなか、八月一五日にはまた集会とデモを展開する予定だ。しかし、糺されなければならないのは歪みきった靖国・天皇主義者たちの認識であり、暴力そのものの政治体制である。私たちは退かない。

(蝙蝠)

【月刊ニュース】反天皇制運動ALERT 49号(2020年7月 通巻431号)

 

反天ジャーナル ◉ (つるたまさひで、桃色鰐、天皇飛蝗)

状況批評 ◉ 対韓貿易規制措置一年、新型コロナ、そして内なる帝国主義意識(李泳采)

書評 ◉ 北村小夜『慈愛による差別』(由香子)

太田昌国のみたび夢は夜ひらく〈121〉◉ 香港での民衆鎮圧に思うこと(太田昌国)

マスコミじかけの天皇制〈48〉〈壊憲天皇制・象徴天皇教国家〉批判 その13◉ 二つの「緊急(非常)事態」状況をどうふまえるのか(天野恵一)

野次馬日誌

集会の真相◉6・13練馬駐屯地デモ&6・29防衛省申し入れ行動/6・14コロナに乗じたヘイトを止めろ!アクション/6・24見せしめ弾圧を許すな 高裁結審

学習会報告◉ 山本太郎『感染症と文明──共生への道』(岩波新書・二〇一一年)

反天日誌

集会情報

 

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*2020年7月7日発行/B5判12ページ/一部250円
*模索舎(東京・新宿)でも購入できます。
http://www.mosakusha.com/voice_of_the_staff/