「新宿区におけるデモの公園使用規制問題」はその後も申し入れ・交渉が継続中である。一連の経緯を報告するとともに、民主主義の根幹ともいえる「デモの自由」に関わるこの問題への注目をあらためて訴えたい。
発端は昨年六月に報じられたニュース(『東京新聞』は一面トップで報道)であった。新宿区が区立公園の使用基準を見直し、デモ出発に使用できる公園の規制に乗り出した(八月一日より実施)というものだ。これまで使用されていた柏木公園、花園西公園、西戸山公園が使えなくなり、区内では新宿中央公園だけになった。主な理由というのが、デモの騒音や交通規制で地域住民や商店、学校、ホテルなどが迷惑を被っているためだという。
新宿区の「(二〇一七年度)公園別デモ出発実績」によれば、総回数は七七件、そのうち駅に近い柏木公園は五〇回。過去五年間の件数の推移でも倍増というほどでもない。そもそもデモに交通規制は当然のこと、「騒音」といってもマイクを使ったコールで訴えることは権利として認められていることだ。当初は「ヘイトデモ規制」と受け取った向きも多い。しかし対象はすべてのデモ。実際にヘイトデモは七七件中一三件に過ぎずヘイトを理由にデモ全体を規制するのはあり得ない。
この決定に対しては、これまで柏木公園を利用してきた多くの団体、区議、弁護士、ジャーナリスト、憲法学者からも抗議の声が多く寄せられた。急きょ結成された「集会・デモくらい自由にやらせろ!実行委員会」は、新宿区に対して責任部局のみどり土木部・公園課に対して申し入れ、交渉の場を要求した。
第一回は九月一八日、区側で出席したのは公園課の課長と係長。今回の決定に際して、具体的にどんな被害がどこから寄せられたのかを問い質すと、あいまいで漠然とした言い方で、各方面から騒音、交通規制で迷惑との苦情が多く寄せられていると繰り返すばかり。新宿中央公園を唯一残した理由も繁華街から離れているから良いと。デモは人里離れたところでやってほしいということらしい。
議事録(六月二七日)によれば、公園課を統括するみどり土木部長が「(デモ参加者が公園に集まることについて)知らない方がかなり集まってくる状況というのは、近隣の方にとっては嫌な状況ではないか」「区民にとってはストレス」「私自身、自分が住んでいる家の近くの公園で、子供もおります」と自治体の責任者として考えられない発言をしている。こうした理不尽な判断基準がまかり通るのであれば、デモの権利などなきに等しい。
九月二九日には、新宿デモと屋内集会(日本キリスト教会館)が行われ、実行委として新宿区に対して撤回を求める闘いを継続することを確認した。二回目の交渉(一一月二〇日)では、規制の根拠とされた町会・商店会の要望書が提出されるより以前(五月一四日)に、総務課長と弁護士が「区立公園におけるデモ出発地としての占用許可について」協議、さらにそれ以前に、総務課、危機管理課、公園課の間でシナリオがつくられていたことが判明した。続く第三回交渉(一二月二八日)には総務課長が出席。総務課長も公園課と同様に、デモ規制について何の疑問も感じず、当然だと思っている。騒音と交通規制で迷惑だと繰り返すので「では祭りや店の宣伝はどうなのか」と問い質しても、「それは問題ない」と居直る。日弁連の会長が懸念を表明している声明についても、「弁護士皆が読んでいるわけでもない」ととんでも発言。「総務課長の発言として社会的に問題になるぞ」と追及すると、あわててその場で謝罪・撤回した。ともかくお話にならないレベルなのである。
次回は危機管理課長の出席も求めて日程を調整中(一月一二日現在)だが、ここまでで明らかになったのは、新宿区長や自民党区議の一部、商店会・町内会の顔役らの暗躍を背景に、区の各部署が、まともな検討・論議抜きに、表現の自由を踏みにじる決定を下したことだ。現在、新宿では、東口広場の歩道が「アルタ前」と呼ばれてデモの集合地点として定着しているが、この状況でいつまで続くかは分からない。というのも、豊島、渋谷、千代田、中央などデモではおなじみの各区における規制、さらには屋内施設での政治的テーマの規制も強まってきているからだ。天皇代替わり、サミット、オリンピックという情勢のなかで、進行する表現規制の現状に抗い、共同で反撃する闘いが求められている。
(藤田五郎)