えらいものがあらわれた。 第Ⅰ期・反天連が発行したニュース「反天皇制運動」(全83 号)の完全復刻合本、二分冊。内容もさることながら重量もかなり、重い。それを天野さんから「プレゼント!」といって渡された。プレゼントって? ぼくらには似合わない、あの、「忘れものを、届けにきました」って、あれ?
たしかに病気になる以前から出不精がちで「運動」不足ではあった。ちょうどよい機会かな。初心忘るべからず、というけど、初心そのものが何であったか忘れている記憶喪失の状態ではあるが、スロウ・ストレッチでこの「時代の贈り物」をのぞいてみよう。
正確にいえば、「第Ⅰ期・反天皇制運動連絡会」というのは存在しない。「第Ⅰ期」はあとから付けられた「追号」みたいなもので、当時はそのままの「反天連」。その反天連が毎月出したニュース、つまり今回の合本に収められているのは、一九八四年三月一日の創刊準備号(第0号)から一九九一年二月一日の第83 号までの八四冊、プラス、号外・特別号三冊の合計八七冊ぶん。八四年から九一年の七年間なんだけど、現在からだと二七〜三四年前のことになる。
一昨年に山岡強一さんの虐殺三〇年の集会に参加したぼくとしては、三〇年前のことといってもつい昨日の感覚なのだけど、やっぱり一般的にいって、三〇年前のことなんてずいぶん昔の話にちがいない。その大昔に何が問題となっていたか? 第0号の「反天皇制運動連絡会結成のよびかけ」という文章には、主旨の一番目として「主要に、Xデー及びXデー準備と対決する大衆的反天皇制運動の形成をめざす」と明記されている。
そう、Xデー。裕仁天皇の死ぬ日だ。裕仁は八九年一月七日に死亡するわけだが、もちろん誰も日付までは測定できず、ただ彼は一九〇一年生まれだから「そろそろ」の想定で、死ぬ日をXデー、その前をXデー状況、その後を葬儀(喪)と即位(祝)の入り混じる奇妙な期節と設定して、あれこれの予測を交えながら敵の出かたに具体的に対応していく、という毎日だった、と記憶している。だから、そういう意味で、この合本の一頁一頁はリアルタイムのドキュメントであり、それを綴った合本は、それ自体が運動の流れを体現し、いきいきとそれを伝える〝運動体〞そのものであるといってもよい、と思う。
ぼくも、その第Ⅰ期の事務局に出入りしていて、毎週火曜日の会議はともかく、そのあとの「二次会」にはわりとちゃんと出ていた(という記憶は鮮明にある)が、いっぽうで、ぼくは芝居をやっていて、その当時は「風の旅団」という集団を組んでいた。風の旅団は一九八二年に結成して八三年から九一年まで芝居を続けていたから、第一期の反天連の活動期間と丸ごと重なる。いま合本をめくってみると、八五年一月の第10 号に「風の旅団法大公演弾圧と〈この時代〉」という記事がある。ぼくがこのニュースに書いた最初の(署名)文章で、前年一一月の法政大学・市ケ谷キャンパスでのロックアウトによる公演弾圧の報告だ。そうそう、市ケ谷付近といえば、八五年は中曽根首相の靖国公式参拝があり、九月の第18 号には「8・15 戦士」の筆による「8・15 靖国神社公式参拝阻止境内抗議闘争顛末記」の実況中継ふう戦闘記が載っている。ちなみにぼくはこれをネタに、同年九月の法大=リベンジ公演では、テントの中に巨大な鳥居を立てて、8・15 戦闘の「再現」をささやかにやってみた。が、このシーンは意気込みのわりには「やや受け」で、闘争史にも演劇史にも何の役にもたたなかった、けど。
それはともかく、ぼくらはもう一方で山谷に支援に行っていて、その山谷では八三年一一月三日にヤクザが「大日本皇誠会」の名で登場、八四年一一月二二日に佐藤満夫さんが刺殺され、八六年一月一三日には山岡強一さんが射殺された。ニュースの最初の「号外」は八六年一月一六日付の「山岡強一氏追悼」の号である。
以上は、ぼくの関心領域でちょっと振り返ってみたものだけど、みんなはどうなんだろう? 死ぬだけ、襲名するだけで、万人に迷惑をかけまくる天皇制のことだから、合本の各ページに登場する一つひとつの記事は、みんながそれぞれ相互につながっていく「経験」になっているにちがいない。
と、(ついでに)大切なことを書きそえておけば、なんといっても「手書き」。ワープロではなく手で書いた誌面の数々だ。さっきこの合本はドキュメントであり運動体であるといったけど、読みながら感じる図抜けたライブ感は、書かれた内容もさることながら、書かれかた、つまり「手書き」にあるとぼくには思える。もちろんこれはメソッド嫌いで、つねに現在性に重きをおくテント芝居育ちのぼくだけの好みかもしれない。
とまれ、この文章が載るのは、合本よりも二七年あとの第Ⅹ期・反天連のニュース、通巻404号だ。「残り」はこの合本の約四倍はある。過去は、長い。それだけくみ取れる「時代の贈り物」は豊富だ、ということにしておこう。
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(池内文平)