【学習会報告】山本太郎『感染症と文明──共生への道』(岩波新書・二〇一一年)

 『ミミック』と言う怪物映画がある。虫を媒介とした感染症の猛威に人類はその虫を捕食する虫を開発、虫ごと感染症の根絶に成功するが捕食した虫が怪物化して人類を襲う話だ。こう書けば誰もが、虫ごと感染症の根絶なんて、やっぱり怪物映画は乱暴で出鱈目だと思う。では感染症だけ根絶ならいいのか? 現に天然痘は根絶されている。だが著者は、天然痘が消えたことによってどんな影響が表れるかまだ分からないと言う。天然痘の存在が他の、より有害な感染症への防波堤だったかもしれないと。

 本書は文明によって感染症が人類に定着・拡大していく様を一万二千年前から現代まで、フィジーからヨーロッパ、アフリカを経てグリーンランドまでを舞台に多くの具体例で描く。病気を「ヒトの環境適応の尺度」と考えればヒトは農耕・定住に未だに適応していないとも考えられる。感染症はウイルスや細菌がヒトに適応する過程であり、幾つかの段階を経て最終的にはヒトから消えていく。身体から消えなくとも、潜伏期間が百年単位ともなれば感染しているだけで発症はない。それでいいのではないかと著者は言うのだ。私たちの国の首相のようにウイルスと「戦争」したがる者と対極の発想がここにある。

 他にも開発と感染症の関りや、植民地と医学の関りなど考えさせられる。西洋医学が近代科学足りえたのは熱帯感染症と出会ったからだとは。

 感想・議論はこの間の「感染症」をめぐる様々な事柄について行われた。そうした議論の前提として今回は脱線してこの本を読んでもいる。そろそろこの間の様々な事柄を集会なりいろんなやり方で検討すべきではないかと思っている。

 次回は、御厨貴「天皇退位 何が論じられたのか——おことばから大嘗祭まで」(中公選書)を7月21日に読む。ご参加を。

(加藤匡通)