【書評】『福島原発事故から6年「復興」の名の下に切り捨てられる人びと』

今回ご紹介するのは、”Alert” 9号「集会の『真相』」でも報告させてもらった、二月一九日に上記のタイトルで行ったシンポジウムのパンフレットです。福島原発事故緊急会議ではここ数年3・11 前後は当事者の声に耳を傾けることに重点をおいてシンポジウムを企画しています。

今年は郡山市在住で「原発いらない福島の女たち」で活動している黒田節子さんとFoE Japan の満田夏花さんのお二人。
随分と時間が経過しての発行になりましたが、パンフ作成にあたり書き下ろしてもらったものです。

自主避難者の住宅提供が三月末で打ち切られるという厳しい事態を目前に控えて行なったシンポジウムでした。

あれから半年、悲しいことにその内容はリアリティーを失ってないどころか、ますます厳しいものとなっています。

今夏、戦時下の大本営発表のごとく安倍政権追従のマスコミ各社は、北朝鮮の弾道ミサイル報道を加熱させ、それは現在も継続しています。冷静な分析や解説がなされることはほとんどなく、人々に恐怖だけを与えるような報道姿勢。

安倍首相は、「国民の生命をしっかりと守るために万全を期す」と発言をしました。その言葉のなんと空虚なことか! このパンフは守られるべき人々の生命が、「国家」により簡単に切り捨てられる現在の具体的な報告です。

全国瞬時警報システム(Jアラート)の警報音が鳴り響き、ミサイルの飛来を想定して頭を抱えてうずくまる人々の避難訓練の様子。地下鉄や新幹線も止める。このような中、原発は次々に再稼働されています。まるで原発事故はなかったかのように。いいえ、事故によって新基準をクリアできているから安全だという新たな安全神話によって。

こんな無駄な訓練よりも、先ず原発を止めるべきだと天野さんも書いていますけれど、そう思います。

この七月に、破壊措置命令を常時発令していることを理由に、関西電力高浜原発3、4号機(福井県)の運転差し止めを求める仮処分が大阪地裁に申し立てられたということです。その仮処分の第一回審尋が開かれ、関電側が「運転を停止すべき程度に、具体的かつ現実的な危険が切迫していない」と却下を求めたと新聞で報道されていました。八月二九日に安倍首相が「これまでにない深刻かつ重大な脅威」と発言していますが、原発は停止されていません。この申し立ては面白いと思います。権力者や支配層がいかにご都合主義か。今、私たちを取り巻く状況のあらゆる場面で展開されている悲喜劇的な政治です。けれども、その嘘がまかり通っている社会の中で、直接被害を受けている当事者の声はかき消されてしまう。その悔しさ、憤り、政府の不条理を黒田さんは訴えます。

「汚染水はアンダーコントロールできている」という安倍首相の大嘘でスタートしたオリンピックに向けて動き出した時間。

黒田さんは「『復興』を声高に叫んで公共事業を推進し、東京五輪を控えて避難指示解除をいそぐことが本当に地域再生につながるのか」と問いかけます。

三〇枚のスライドとともに、この六年のフクシマの実態が報告されていますが、国の不条理と闘ってきた歴史でもあります。

満田さんは公のデータをベースに、当事者によりそった視点で、「国策」として推進され、現在も継続する原発政策における被害の客観的事実を紹介。避難・帰還政策に重点を置いた報告となっています。

加害者が誰一人責任を問われることはなく、それどころかその加害者が継続して今も原発に関わっている。
事故から六年、次々に原発再稼働が強行されています。

「目の前を通り過ぎようとしていることに、愚鈍でも誠実に向き合ってやっていきたいと思っています」と黒田さんは最後に締めくくられました。

●定価:五〇〇円
●申込先:2011shinsai.office@gmail.com

(平井由美子)