【学習会報告】黒田久太『天皇家の財産』(三一書房、一九六六年)

 近代天皇制の経済的面については、研究文献の少なさもあって、私たちは知っているようで知らないことも多い。本書は古い本だが、当時調べられるだけの資料に当たり、事実追跡を主眼にしたと著者が言うだけに、今日でもずいぶん役に立つ本だ。明治国家指導層が憲法制定に当たって、国家の根幹への議会の関与を極力せばめる意図から国家財産のある部分に皇室財産の形をとらせて不可侵化させ、元来私的資産をほとんど持たない皇室を巨大な「財産家」たらしめたこと、この皇室財産が株式・国債の運用益と広大な山林経営の収益によって一九四五年まで抜け目なく蓄積され続けたこと、が本書からよくわかる。

 報告は戦前に関する記述の紹介を主とし、戦後憲法下の皇室経済については私たちも従来比較的よく知っているから簡略になされた。しかし戦前と戦後では状況は一変しているが、いくつかの本質的な面で継承性があることは討論でも問題になった。皇室財産はほとんど固有財産に移されたが、国から皇室への供与・貸与(と言っておく。皇居など)に対して、厖大な公的行為にかかわる経費をも含めて、国会(人民)の関与は微弱であること、戦前の皇室財産は国家が自分の目的から設定したもので、その収支に皇室自身の恣意性が働く余地が狭かったが、それは戦後も続いていて、与えられた経済生活の埒をあまり自身で越えようとしない(他国王室に比べて「自由度」が小さい)らしいことなど。

 本書は戦後天皇制が権力と自立的経済力を失ったことで形骸化の方向に進むと見ているようだが、この点は私たちは賛成できない。戦後天皇は支配集団の一体性の柱、国民意識安定の支えとして、こんにちも重要な政治的存在でありつづけているのだ。

 次回は小菅信子『日本赤十字社と皇室』(吉川弘文館)を読む。

(伊藤晃)