【書評】『一からわかる共謀罪:話し合うことが罪になる

三月二一日、政府は「共謀罪」(組織的犯罪処罰法改正案)を閣議決定した。
四月中に法案の審議に入り、通常国会での成立を目指すという。

共謀罪は、「国内における立法事実はない」けれども、「国連越境組織犯罪防止条約」を批准するために必要であるとして、二〇〇三年以降三度にわたり国会に提出されたが、それが市民運動や労働運動に適用され、思想や内心を処罰するものだという強い批判で、廃案となったものだ。今回は、二〇二〇年の東京オリンピックに対する「テロ対策」が口実として前面に出ているのが特徴である。四度目の法案提出の動きが具体化する中で、「『秘密保護法』廃止へ!実行委員会」「解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会」「盗聴法廃止ネットワーク」の三団体によって編集発行されたのがこのパンフだ。共謀罪の解説だけでなく、スノーデン、監視カメラ、GPS、共通番号などに関するコラムも入っていて、読み応えがある。

共謀罪について二本の文章を書いている海渡雄一弁護士は、周知の通り、日弁連の中心メンバーとして共謀罪反対運動を牽引してきた人である。この間も、共謀罪関係の本(『「共謀罪」なんていらない!:これってホントに「テロ対策」』共編、合同出版、『新共謀罪の恐怖』共著、緑風出版)などを立て続けに出している。

詳しくは本パンフを直接読んでいただきたいが、原則として既遂行為のみを処罰し、一部の重大犯罪に関してのみ「例外的に」認められていた共謀を処罰できるようにしていること(対象犯罪は二〇〇六年段階で六一九件、今回の閣議決定では二七七件)が、刑法体系それ自体の転換であること、いわゆる「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」が対象で、「一般市民は対象にならない」と政府は説明するが、通常の団体が組織的犯罪集団に「一変」した場合にはその対象になるとしていること、組織犯罪とか共謀とかの認定が捜査機関によって恣意的になされること、(事前監視を必須とするところから)盗聴が共謀罪立証の手段として拡大されること、そしてこの法案が戦争法と一体のものであることなど、その危険性が明確に指摘されている。治安維持法との比較で、それが「国体(天皇制)の変革、私有財産否認という目的の限定」があったのに比べて、共謀罪は羅列された「犯罪を目的とする団体であればよく、拡大解釈の余地がより大きいともいえます」という指摘は重要だろう。

少しだけひっかかりを感じるのは、「共謀罪をつくらなくても『国連越境組織犯罪防止条約』は批准できます」という部分。日本は国連のすべてのテロ対策防止条約を批准し、国内法を制定しているので、政府が主張する「条約批准のため不可欠」という言い方は成り立たない、と主張している。また、すでに「合計71 の非常に重大な犯罪については、未遂以前の行為の処罰を可能とする制度が整っていると言えるのです」という表現もある。もちろん、その指摘は正しく、さまざまな口実を設けて悪法を強行しようとする政府に対して鋭く迫る論理であろう。このパンフでも、それらすでに「整備」された法制度を評価しているわけでは全くない。ただ、「テロ」なる言葉がマジックワードとして拡大することへの警戒だけは常に意識しておきたい。

すでに私たちは、権力による法の無視と恣意的な運用をさんざん見てきた。安倍政権の憲法無視の姿勢は如実だが、警察による弾圧という面から見ても、デモや争議などの弾圧でよく聞く傷害とか強要、建造物侵入・損壊、有印私文書偽造や免状不実記載などの文書弾圧、最近ではレンタカーをみんなで割り勘にしたことを「白タク」行為、労組の名前で会議室を借りたことが詐欺罪にされるなど、一般犯罪が機能的治安法として適用される例は後を絶たない(パンフに資料として掲げられている対象犯罪のリストには「御璽等偽造」という罪名があった。いま確認できないが、これ、「天皇踏み絵ビラ」でやられたやつではなかったか?)。それらがすべて、今回対象犯罪になっているわけではないようだが、「共謀」があったと認定されるだけでこれを犯罪化し、事前の捜査が可能になるとすれば、それは警察権力に弾圧のための一層の道具を与えることしか意味しない。

警察や検察の違法捜査を「是正」するためと称して、一部可視化と引き替えに盗聴対象犯罪を拡大し、司法取引制導入など「新捜査手法」を盛りこんだ刑訴法「改正」法案も昨年五月にすでに成立している。共謀罪とセットでこれらもより「有効」なものとなるだろう。警察国家・監視社会はおことわりだ!

●二〇一七年一月発行/頒価200円/入手方法などの連絡は日本消費者連盟(e-mail: office.j@nishoren.net )まで。

(北野誉)