本書は序章・I部・II部でできており、今回は序章と第I部を読んだ。頁数的にもお値段的にも二回分、という感じではある。ただ、内容的には分けずにやった方が、議論はさらに面白くなったのかもしれない。いや、時間不足の欲求不満になったか……。実際、I部だけで大いに盛り上がった。
第I部「戦後皇室典範の制定過程─今日的課題の源流」の構成は、一・「皇室典範的なるもの」への拘泥─皇室典範の基本的性格をめぐって、二・「天皇の退位」「女帝」「庶出の天皇」─皇室典範の各論的考察。
一九四五年八月一五日、あるいは一九四六年一月一日の「人間宣言」を機に、「萬世一系」の天皇信仰がコロリと消滅するわけはない。それは支配者層を構成する者たちにとっても同様だ。本書では「帝国憲法」とそれに並ぶ「皇室典範的なるもの」への支配者たちの拘泥ぶりを、新憲法制定とそれに則って制定される新しい「皇室典範」制定の際の、意識・無意識な策略や見解をエピソードとして紹介しながら、あぶり出していく。「皇室法」ではなくなぜ「皇室典範」という名称を継承したか、は典型的な議論だ。そのエピソードの数々が面白い。
奥平のいう「萬世一系の天皇」という一つのイデオロギー体系が、戦後のGHQとの攻防、国会審議等を経る中で、少しずつ譲歩しながらも新憲法の体系にくい込み、現在に継承されている。それを知ることで、現在の「今日的課題の源流」を理解することもできるだろう。
各論の「今日的課題」とは、一〇年以上も経った二〇一六年現在の、支配者層が直面している課題そのものである。そして、別の立場で私たちも同様に直面している。
昨年亡くなった著者奥平が生きていてくれたら、何を語っただろうかと、唸る思いが残る。
次回は一一月二九日(火)、この本の後半部分を読む。
(桜井大子)