「あなた、国民ですか?」と二十歳前後と思える若い女性は私に問うた。本紙「集会の真相」にも報告している「元号はいらない署名」の、新宿アルタ前街頭情宣を友人たちと楽しくやっていた時のことだ。この一言を言いたくて声をかけてきた人だろう。どのようにしても通じ合えないように思える時間だった。それとも、どこかに回路はあるのだろうか……。
誰もが感じているだろう元号の「不便、不自由、不合理」と、天皇の年号を使うことの問題を伝えようとするも、むなしく終わる。平行線のままで対話とはいえない。歴史認識の大きなズレ。苛立つほどの天皇信奉者。反天の行動で私たちを攻撃する人たちと主張は変わらない。ねじ曲げられた「歴史の真実」なるものが厖大に発信されている、妄想の世界を知識の源とする人たちだろう。
しかし、その同じ場所でまた違う人たちとも出逢う。「なぜ反対するのか」と問われ、同様に応えていると、私も天皇制に反対だから、といって署名してくれる人。通りの脇にずっと座っていた男性は、友人たちのスピーチに耳を傾けていたらしい。おもむろに起ち上り近寄ってきて、サラサラと署名してまた同じ場所に座った。たった二時間のアルタ前。この狭い空間で、いろんな人に遭遇できる、ということも実感できた。まあ、そんなに世の中大きくは変わっていないのかも……。
私がとても若かったころ、集会やデモのあと、会場を離れて一人歩いているときによく不思議な気分に襲われた。さっきまでいた小さな社会と、いま歩いているリアル社会が異次元であるかのような錯覚だ。しかし実際はそうではなくて、リアル社会に私たちもあの人たちも、いろんな人たちがいる。だから、きっと回路はどこかに見つかるのだろうと、今はそう思ったりする。
(桜井大子)